429話 次の目的地は?
「……って、いうことがあったんだ」
「「「……」」」
色々な後始末をして……
しばらくしてようやく落ち着くことができて、そこでみんなと合流して、話をした。
驚くだろうなあ、って思っていたけど、見事にその通り。
みんな目を大きくして、ぽかーんとした表情を浮かべていた。
……サナだけは、呑気に店のごはんを食べていた。
「ねえ、ハル……どうして、そんな大事なことを今まで黙っていたの?」
アリスのジト目。
うん。
気持ちはわかる、わかるんだけど……
「ごめん。ただ、これはどうしようもない気が……」
エグゼアが失脚して。
しばらくの間、海洋都市は大混乱に陥った。
エグゼアのやり方は、必ず賛否両論を巻き起こす。
俺達が関わらなくても、いずれ、なにかしらの問題が起きていただろう。
ただ、引き金を引いたのは俺達なので、しっかりと後始末とサポートをする必要があった。
そのため、ここ数日、みんなで駆け回るようにして色々と励んでいたわけだ。
「話をするヒマはなかったじゃない? 無理に話をしようとしたら、どこかで歪みが生じていただろうから……ひとまず、後始末を優先する必要があったんだ」
「それは、まあ……」
「この話は大事だけど、だからといって、この街のことがどうでもいい、っていうのはちょっと……まずは街を優先しないと」
「むう」
アリスは苦い表情に。
理屈ではわかっているのだけど、感情が追いついていないみたいだ。
とはいえ、そんな反応をさせてしまったのは俺に責任がある。
もっと早くあの姉妹の正体に気づいていたらよかった。
「はあ……まあいいわ。それで、あの子達が天使っていうのは、確かなことなのね?」
「たぶんね」
どこか別の場所に天使がいて、操られている、っていう可能性もあるけど……
今、フランとフラメウはこの街にいない。
誰の記憶に留まることなく、最初からいなかったかのように、忽然と姿を消した。
そのことを考えると、二人が天使というのは正しい認識でいいのだろう。
「あの……クラウディアさんとシルファは、どこにいるのでしょうか?」
アンジュが不安そうな顔をして聞いてきた。
二人の身を案じているのだろう。
「うん。裏付けはとれていないけど……あの二人が言うには、城塞都市にいるらしい」
「えっ」
驚くのも当然だ。
だって、アンジュの故郷だし。
その話を聞いた時は俺も驚いた。
アンジュとナインと出会い、色々なことがあったところ。
僕の中で特に印象深い街だ。
「それは本当のことなのでしょうか? 私達を誘い出して、なにかよからぬことを企んでいるという可能性は?」
「ナインの懸念はもっともだと思う。でも、罠をしかけるなら、もっとスマートな方法があると思うんだ」
海洋都市から城塞都市はかなり遠い。
そんな場所に罠をしかけるよりは、もっと近い場所でなんとかなるはずだ。
クラウディアとシルファを餌にする必要性もない。
確認のしようがない情報なので、俺達が信じなかったらそこで終わり。
それよりは、目の前で誰かをさらってみせて、誘い出した方が確実だ。
「まあ、罠じゃないって断言はできないけど……かといって、スルーすることはできないよ」
「……そうですね。差し出がましいことを口にしてしまい、申しわけありませんでした」
「ううん、気にしないで。見落としていたり間違えたりするなんてよくあるし、色々と言ってくれた方がありがたいよ」
俺一人の意見を押し通すのではなくて、みんなの意見をまとめて、最適な解を導く。
それが仲間、っていうものだと思う。
「じゃあ、次は城塞都市に行くわけ?」
「うん、そのつもりだけど……レティシアやみんなどう思うかな?」
「私は別に……なんでもいいわ」
「あたしも賛成よ」
「クラウディアさんを迎えに行かないと、ですね!」
「長い旅になりそうですね」
「もぐ? もふぉふぉっふく」
みんな賛成みたいだ。
でも、サナ。
口にものを入れたまましゃべらないで?
「よし! じゃあ、次の目的地は城塞都市ということで」
「「「おー!!!」」」
みんなが意気込み、
「ねえ、ハル」
ふと、レティシアが口を挟む。
「目的地が決まったのはいいんだけど」
「うん、どうかしたの?」
「旅費、もうないわよ?」
「……」
沈黙。
そして、
「「「えぇっ!?」」」
みんなの悲鳴じみた声が響くのだった。




