428話 世界の半分
「仲間、って……それ、本気?」
「もちろん♪」
フランは楽しそうに言う。
「俺のこと、ちゃんとわかって言ってる?」
「わかってるよ」
「母様の一番の敵ですね」
わかっているみたいだ。
その上で仲間に誘うということは……
良い意味でも悪い意味でも、俺のことを警戒している、っていうことだよね?
「うーん……待遇は?」
「「……」」
そう問いかけると、二人はきょとんとして、
「あはは!」
「ふふ」
フランは爆笑して、フラメウも小さく笑った。
「そんなにおかしなことを聞いたかな?」
「だって、話に乗ってくるだけじゃなくて、待遇まで聞いてくるんだもん。そんなの想定外だよー」
「今までにもこういった勧誘は何度かしてきましたが、あなたのような答えは初めてですね。大抵は、突っぱねられてしまうので」
いい感じに俺に興味を持ってくれたみたいだ。
このまま話を進めて、できる限りの情報を引き出したい。
「ただ……それは本心ですか?」
「どういうこと」
「話を合わせて、私達から情報を引き出そうとしているのでは?」
お見通しだったらしい。
うーん。
どうやら下手な小細工は通用しないみたいだ。
こういう時は、素直に本心をぶつけた方がいい。
「正解。ただ、二人に興味があるのは事実だよ」
「お兄ちゃん、それ、口説いてる?」
「そういうわけじゃないよ。ただ……」
俺は魔王を継いだ。
神や天使のことを知った。
ただ、それは魔王から見た一方的な知識と経験と記憶だ。
本当に戦わないといけないのか?
倒すべき敵なのか?
そこは自分の目でしっかりと確かめて、慎重に見極めたいと思う。
だからこそ、今、彼女達と色々な話をしたい。
「俺は、君達のことを知りたい。というのも、これからどうするのか? 特に決めていないんだよね」
「あれ? そうなの?」
「実は神様が本当にいて、裏で世界を調整している。魔王は本当の自由を取り戻すため、悪魔を率いて神様に戦いを挑んでいた……っていう事実を知った直後、強制転移させられたからね。仲間はバラバラになって、見知らぬ土地に飛ばされて……考えるヒマがないんだ」
「あー……あれね」
フランが気まずそうな顔に。
ちょっと意外な反応だ。
「実を言うと、あれ、部下が暴走しちゃってねー」
「暴走?」
「魔王の継承を阻止しよう! って感じで突撃しちゃったんだ。でも、もう継承は行われていて、お兄ちゃんは力を手に入れた。そんなところに無茶な攻撃をして、事故が起きて……」
「その結果が、あの強制転移?」
「そゆこと。あははー……ごめんね?」
本気で悪いと思っているらしく、フランは苦い顔をしていた。
演技のようには見えないけど……
でもこの子は、途中まで見事に俺達を騙してみせたからな。
なにを信じていいのやら、わからなくなってしまいそうだ。
「二人の話を信じると、あれは事故っていうことになるけど……じゃあ、鉄血都市で領主をそそのかしていたのは?」
「そそのかしてなどいません。あれは、あくまでも領主が望んだこと。私達はそれに力を貸しただけにすぎません」
「他都市への侵略を許すの?」
「母様がそれを許容したので」
「その意図は?」
「あの都市の力を削ぐためですね」
「うん?」
「他都市への侵攻。それは許されることではありません。しかし、領主が変わらない以上、都市の根幹が変わらな以上、いつか必ず侵攻が開始されるでしょう。そのために……」
「あえて背中を押して、そして、自滅することを望んでいた?」
「正解です」
フラメウは真面目な顔をして頷いた。
わからない話でもないけど……
でも、その計画が実行されると、たくさんの血が流れることになる。
世界平和なんて壮大な話を叶えようとしているわけじゃない。
冷たい話かもしれないけど、世界の裏側で顔も知らない人が死んでもなんとも思わない。
だけど。
こんなにも簡単に犠牲を許容しようとする二人の姿勢には、ちょっと……色々と思うところがあった。
「とりあえず、すぐに答えは出せないと思うんだ」
「うん、そうだね。この話も二人の正体も、色々と突然すぎて、ちょっと思考が麻痺しているよ。それに……」
俺一人で決めるのではなくて、みんなと話し合いたい。
ただ、そのみんなはまだ揃っていない。
クラウディア、シルファ……どこにいるんだろう?
「答えは先延ばしでいいよ」
「いいの?」
「急かしすぎている、っていうのは自覚してるからねー。すっごく待たされると困るけど、ある程度、ゆっくり考えていいよ」
「それはありがたいかな」
「私達があなたを本気で仲間にしたいと考えている……その証明となるかわかりませんが、こちらの誠意を見せましょう」
「誠意?」
「クラウディア・ファナシスとシルファ・クロウブラストの居場所を知りたくありませんか?」




