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425話 おまたせいたしました

 矢が一本、まっすぐに飛んでくる。

 俺だけを狙った正確無比な射撃だ。


 避ける?

 その時間はない。


 撃ち落とす?

 兵士を巻き込まない自信がない。


 迷いが隙となり、対処を遅らせてしまう。

 そして……


 ザンッ!


 その時、人影が舞い現れた。

 俺と矢の間に立つと、短剣を一閃。

 矢を切り落とす。


 ピンチに駆けつけてくれたのは、もちろん、決まっている。


「「ナイン!!」」

「おまたせしました、お嬢さま、ハルさま」


 ピシリとした様子で。

 凛とした表情で。

 かっこいい、を体現したかのような姿を見せたのは、ナインだった。


「お嬢さまとハルさまには、指一本、触れさせません!」


 キリッとした表情でそう言い放つと、ナインは兵士達に向けて駆けた。


 まさか、立ち向かってくるとは思わなかったのだろう。

 兵士達は動揺して、どうする? と迷う。


 それが大きな隙となる。


 ナインは兵士達の合間を縫うように駆け抜けて……

 同時に、両手に持つ短剣を振る。


 舞い踊るように優雅で。

 それでいて、激流のように苛烈な攻撃が繰り出される。


 ある者は武器を破壊されて。

 ある者は足を斬られて機動力を奪われて。

 倒れる。


「すご……」

「ナイン、あそこまで強かったでしたっけ……?」


 ついつい、アンジュと揃ってぽかーんとしてしまう。


 そんな中、ナインは不敵に笑う。


「ふ……うふ、ふふふふふ!」


 訂正。

 不敵というよりは不気味だった。


 瞳を爛々と輝かせて短剣を構える。


「よくも今まで、お嬢さまを好き勝手に利用してくれましたね? 本当に、好き勝手してくれましたね? 私がどれほど我慢したか……もう本当に、頭がおかしくなってしまいました。私のこと? 私はどうでもいいのです。お嬢さまが全てです。そのお嬢さまの記憶がないことを良いことに、さらに、優しさに突け込み……ふ、ふふふ」


 ナインは短剣を構えて言う。

 そして、普段は見えない極上の笑みを浮かべた。


「覚悟してくださいね?」




――――――――――




 十分後。


「……うぅ、な、なんてことだ……」

「つ、強い……」


 追手の兵士はナインに全滅させられていた。


 全滅と言っても殺したわけじゃない。

 きっちり手加減している様子で、動けなくなっているだけのようだ。


 なんていうか……うん、すごい。

 とてもじゃないけれど、俺はここまでできない。

 一掃なら簡単だけど、それよりも、手加減しつつ蹴散らす方が遥かに難易度が高い。


 うーん。


 今度、ナインに戦い方を教わった方がいいかな?


「さて」


 ナインが短剣を構えて、エグゼアを睨む。

 ちなみに、他の参列者はとっくに逃げ出した。

 兵士もいなくなり、彼は一人だ。


「勝負はついたと思いますが、まだやりますか?」

「君が裏切るか」

「元々、あなたに仕えた覚えはありません。私の主は、これまでもこれからも、お嬢さま、ただ一人です」

「このようなことをして、タダで済むとでも? そろそろ憲兵や冒険者がやって……」

「歓迎すべきことですね。彼らは、ここで数々の不正の証拠を見つけることになるでしょう」

「……なるほど。そちらの対策も完璧、というわけか」


 なんていうか……

 ナインに全てを持っていかれている。


 いや、いいんだけどね。

 いいけど……なんか寂しい。


「あなたはもう終わりです」

「……そのようだな」


 意外にも、エグゼアはあっさりと敗北を受け入れた。

 抵抗する様子はなく、静かなため息をこぼす。


「ハッタリではなくて、その話は真実なのだろう。表の騒ぎが陽動であることはわかっていたが、まさか、花嫁をさらうことも陽動だったとは……」

「おとなしく投降していただけますか?」

「……」


 エグゼアは目を閉じた。

 なにか考えている様子だけど、その胸中はわからない。


 ややあって目を開いて、


「断る」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] ナイン助太刀参戦って流れは解りやすいけどナインもフラストレーション溜まってたんだな(ʘᗩʘ’) 流石に手出し出来ない状態であれやれこれやれと色々言われただろうからここで発散捺せとかないと後…
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