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423話 ……あ……

「待て、逃げるな!」

「止まれ!」

「今すぐに投降するのなら、領主様は温情をかけてくれるだろう!」


 アンジュを抱えつつ、屋敷の敷地内を駆けて……

 たくさんの兵士が追いかけてくる。


 スターになったような気分だ。


 まあ、追いかけてくる目的はまったく別で。

 捕まったら一貫の終わりなんだけどね。


「あ、あの……」


 腕の中のアンジュが、恥ずかしそうにもじもじする。


「下ろしてもらえると、その……助かります」

「ダメ」

「ダメなんですか!?」

「そのドレスだと走りづらいでしょ?」

「それは……」

「あと……」


 これは言っていいものかどうか。

 迷うけど、隠しても仕方ないと思い、口にすることにした。


「自分が戻れば俺に迷惑をかけないで済む……とか、考えていない?」

「っ!? ど、どうして……」


 図星だったらしく、アンジュが驚いた顔に。


「わかるよ」


 アンジュはいつも一生懸命で。

 そして、とても優しい。


 その笑顔は、そっと心を包み込んでくれるように温かくて。

 いつも誰かのことを考える真面目なところは、誰もが見習わないといけないところで。

 隣にいると笑顔があふれるようになる。


「……そんなアンジュだから、自分のことを犠牲にしようとする、っていうのは簡単に想像できるんだ」

「あうあうあう……」


 思っていることをそのまま伝えると、なぜかアンジュが真っ赤に。


「うぅ、このドキドキは……どんどん強くなっていきます。でも、どこか懐かしいような……」

「アンジュ?」

「あ、いえ……なんでもないです」


 アンジュは顔を逸らしてしまう。

 どうして?


「そんなわけだから、アンジュはこのままで」

「……恥ずかしいのですが」

「我慢して」


 アンジュを抱き上げる手に力を込める。


「俺は……」


 思い返すのはレティシアのこと。


 たくさんのすれ違いと誤解が重なって……

 そして、俺は彼女の手を離した。


 今になって後悔をした。

 あんなことをしなければ……

 もっと話し合いをするか、レティシアが変わってしまった原因をしっかりと考えるべきだったと、悔やんだ。


 だからもう、


「二度と間違わない」


 大事なものはこの手に。

 二度と離さない。


「アンジュは、誰にも渡さないよ。俺が奪う」

「どうして、そこまで……」

「だって」


 にっこりと笑いかける。


「アンジュは大事な人だから」

「……あ……」


 アンジュが目を大きくして驚いた。

 そのまま、ぽかーんとして……


 ややああって、その瞳に涙がたまる。


「あ、アンジュ……?」


 俺、なにかやらかしてしまっただろうか?


「だ、大丈夫……です。嬉しくて……あと、とても腹立たしくて」

「嬉しくて腹立たしい?」

「私、どうして、こんなにも大切なことを忘れていたのか……ああもう、本当に自分に腹が立ってしまいます」

「アンジュ、もしかして……」


 アンジュはこちらを見て、にっこりと笑う。

 その頬は涙に濡れていたけど……

 でも、とても綺麗な笑顔だ。


「その……ただいまです、ハルさん」

「……うん。おかえり、アンジュ」


 こうして俺は、本当の意味でアンジュを取り戻すことができたのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] ヒロインやな〜༼⁰o⁰;༽完璧にメインヒロインの座に座ったぞ(ʘᗩʘ’) これでは出涸らしヒロイン達にワンチャン有るかも怪しくなったな(↼_↼) しかしこの美味しい場面なのにナインが居な…
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