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422話 大混戦

「そのようなこと、させると思っているのか?」


 エグゼアの静かな声が響く。

 努めて冷静を装っているものの、その声からは隠しきれない怒りを感じた。


「おそらく、表の騒ぎは陽動なのだろうな」


 見抜かれていたらしい。

 さすがだ。


「とはいえ、全ての兵がいないと思わないことだ」


 エグゼアが指を鳴らすと、大量の兵士がなだれこんできた。

 物々しい雰囲気に参列者達が悲鳴をあげるものの、彼はまるで気にした様子はない。

 もう穏便に済ませるつもりはないようだ。


「慈悲をかけてやろう」


 兵士達が剣や槍をこちらに向けて……

 そんな中、エグゼアは静かに言う。


「おとなしく彼女を渡せ。そうすれば、手荒な真似はしないでおこう」

「……」


 その言葉に、ちょっとイラッときた。


「アンジュを物扱いするような言い方、やめてくれないかな?」

「なんだと?」

「彼女は彼女だ。あなたの物じゃないし、政治の道具でもない」

「……」

「そんなこともわからない人に、任せられるわけがない」

「そう言うが、お前にとってはなんなんだ?」

「決まっているよ」


 魔力を練り上げつつ、言う。


「仲間だよ」

「……あ……」


 腕の中のアンジュが、なにか小さくつぶやいたような気がした。


「伏せて!」


 参列者達に言いつつ、魔法を唱える。


「ファイア!」


 威力を思い切り絞り、指先に火を灯すような感覚で。

 それでも、業火が駆け抜けた。


 ゴゥッ! という音と共に、炎が舞い上がる。

 それはまるで生き物のように暴れ回り、兵士達をまとめて吹き飛ばす。


「ぐぁ!?」

「ぎゃあ!?」


 熱よりも衝撃の方が強かったらしく、半数近くの兵士が吹き飛んだ。


 こういう極限の場面になると、ついつい、不審者の言うことでも聞いてしまうのだろう。

 参列者達は頭を抱えて伏せていたので、大して被害はないようだ。


「なっ、バカ……!? たった一撃で……」

「今、ヤツはなにをしたんだ? 初級火魔法を唱えたようだけど……」

「そんなわけないだろ。ただの初級火魔法に、これだけの威力があってたまるものか! そんなの……そんなことがあるわけがない! エクスプロージョンに決まっている!」


 なんだか新鮮な反応だ。

 「今のはただのファイアだ」……なんて、悪ノリしたらどうなるかな?


 いたずら心が疼くものの、我慢。

 今は、そんなことよりも、アンジュを安全なところに連れて行くという大事な目的がある。


「というわけで、もう一回ファイア!」


 さらに威力を低く設定して……

 誰もいない天井に向けて魔法を放つ。


 炎が天井を広がり、隅々まで伸びていく。

 頭上から迫る炎に、誰も彼も慌てて頭をおさえてかがんだ。


「ファイアボム!」


 近くの壁を壊して、外に繋がる道を作る。


「アンジュ、しっかり掴まっててね」

「え? ……ひゃあ!?」


 アンジュの背中と膝裏に手を回して、一気に抱えた。

 いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。


「はう、すごくドキドキします……これはいったい?」

「いくよ、アンジュ」

「は、はい!」


 こうして、俺は花嫁を見事に盗み出すことに成功するのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] こんな美味しい場面でも唐変木ムーブかよ(ʘᗩʘ’) そこは俺の女と言うのが男気と言う物だろ(ب_ب) このまま、あ~ばよー\(゜ー゜\)と行ければいいが
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