419話 ミッション、花嫁をさらえ
フラメウの手引で、無事、屋敷に潜入することができた。
今のところ、誰にも見つかっていない。
「ご無事で」
「うん、ありがとう」
中に入ったところで、フラメウと別れた。
この先は、どう考えても荒事になるから、フラメウはここで引き返すことになっていたのだ。
ここからは一人だ。
絶対に失敗することはできない。
「って、気負いすぎないようにしないと」
適度に緊張して、適度にリラックスをして。
そして目的を達成する。
「よし」
気合を入れ直して、目的地を目指す。
屋敷に併設されている教会。
そこで式が挙げられるらしいのだけど……
「……あれかな?」
しばらく進んだところで、それらしき建物が見えてきた。
護衛の兵士。
その中を、きらびやかなドレスに身を包んだ人が進んでいく。
式の参列者だろう。
どうして領主がアンジュと結婚しようとしているのか、そこはまだよくわからないのだけど……
ああして人を招いているということは、今回の結婚を対外へ示す目的があるのかもしれない。
そうすることで、己の地盤を固めて力を増そうとしている?
単なる思いつきだけど、でも、それなりに当たっているような気がした。
エグゼアは合理主義者とフラメウから聞いている。
アンジュを愛していることは、たぶん、なくて……
その地位を狙っているとしたら、説明はつく。
「本意からならともかく、記憶喪失の状態で、ナインを人質にして言うことを聞かせるなんて間違っている。なによりも……アンジュは仲間だ。もう……」
レティシアのことを思い返す。
仲間だったけれど、でも、彼女のことを信じることができなくて……
変わってしまった原因を考えることなく、切り捨てた。
失敗だ。
「もうあんなことは繰り返さない」
仲間を信じる。
そして、二度を失わない。
そのために、今、できることを全力でやる。
式を襲撃して花嫁をさらうとか、典型的な悪党なんだけど……
そんなものは気にしない。
悪党上等。
だって、俺は魔王だからね。
「そんなわけで……」
――――――――――
「よいしょ、っと」
教会の屋根裏に侵入した。
方法?
そこらの木を登り、ひょい……という感じで。
小さい頃、レティシアに連れ回されて木登りをしたりしていたから、慣れたものだ。
まさか、あんな経験が役に立つなんて……
人生、なにがどうなるかわからないものだ。
「えっと……あ、見つけた」
こっそり教会内の様子をうかがい……
ほどなくして、式場の真上に移動することができた。
まだアンジュや領主の姿は見えない。
式が始まっていないから、別室で待機しているのだろう。
「陽動はうまくいっているっぽいな」
見た感じ、兵士の数が少ないような気がする。
というか明らかに少ない。
領主の結婚式となれば、かなりの兵士がいて当然なのに……
見たところ、十分の一しかいないような気がする。
アリス達が陽動をしてくれているおかげだろう。
これなら、フラメウもうまくやってくれると思う。
結婚式場まではついてこないけど……
彼女は彼女で、別にやってほしい大切な役割がある。
準備は万全。
あとはその時を待つばかりだ。




