414話 複雑な乙女心
「……というわけで、こんな作戦でいこうと思うんだ」
夜。
蒼の庭で作戦会議を行う。
アリスとレティシアを呼んで、とある作戦を聞かせるのだけど……
「「……」」
ものすごく微妙な顔をされてしまう。
不安に思っている?
いや。
それよりは、どことなく不機嫌そうな……
なんでだろう?
アンジュと領主の結婚式に紛れ込んで、途中、騒動を起こしてそのどさくさでアンジュをさらってしまう、という作戦なのだけど。
花嫁をさらう。
物語だとよくある展開だ。
でも、あれは意外と効率が良いんだよね。
参列者を隠れ蓑にすることで、敵の喉元まで自然と接近することができる。
その上で、特大の打撃を与えることができる。
見栄えがいいだけじゃなくて、わりとよく練られた作戦だったりする。
だからこそ、今回はそれでいこうと思ったんだけど……
「……ねえ、アリス。ハルのことだから、心もさらうとかありそうじゃない?」
「……ありえるわね。というか、すでにさらっているし」
「……え、そうなの?」
「……そうなの。けっこう前から……というか、出会った時から?」
「……ハルのヤツ、私に黙ってふざけたことを」
「……また闇落ちしかけているわよ。落ち着いて」
なにやら女性陣が内緒話をしている。
時折、睨まれるのだけど……なんで?
「すぴかー、すぴかー」
ちなみに、サナはベッドで寝ていた。
気持ちよさそうに寝息を立てている。
作戦とか覚えられないみたいだから、まあ、別にいいや。
「はあ」
ややあって、なにかを諦めたような感じで、アリスがため息をこぼす。
「仕方ないわね。確かにそれが一番効果的だろうから……うん、賛成するわ」
「ただ、変なことはするんじゃないわよ? なにかしたら……ふふふ」
変なこと?
あと、剣の柄に手を伸ばしながら笑わないで。
普通に怖いよ。
「じゃあ、基本的な作戦はこれで。後は詳細だけど……」
その日。
夜遅くまで話し合い、みんなで作戦を練り上げた。
――――――――――
「……」
街から明かりが全て消えた、深い夜。
アリスはテラスに出て、夜空を見上げていた。
その横顔はどこか寂しそうで、なにかを耐えているように見える。
「寝ないの?」
「……レティシア……」
「そっと部屋を抜け出すもんだから、気になって、私も起きちゃったんだけど」
「それは……ごめんなさい」
「ま、いいわ。ちょっと夜風を浴びたい気分だったから」
そう言って、レティシアはアリスの隣に並ぶ。
そして同じように夜空を見上げた。
「……」
「……」
言葉はない。
ただ、剣呑な雰囲気はなくて、どこか穏やかな空気が流れていた。
「ねえ」
「なによ」
「レティシアは……ハルのこと、好き?」
「好きよ」
即答だった。
ごまかされるなどされると思っていたアリスは驚いて、目を大きくしてしまう。
「小さい頃はずっと一緒に過ごして……その後も一緒に過ごして……だから、大事な幼馴染よ。もちろん、人としてっていうだけじゃなくて、異性として好きよ」
「……」
「なによ、その顔」
「素直に認められるとは思わなくて」
「ハルがいないなら、これくらい、普通に言えるわよ」
「本人の前で言ってあげればいいのに」
「……言えるわけないでしょ。そんな資格、私にはないわ」
レティシアはうつむいて、テラスの手すりを見る。
「ハルのためを思って、ずっとずっと束縛して虐げて……今更、どんな顔をしてそんなことをすればいいのよ?」
「それは悪魔のせいで……」
「でも、私がしたことよ」
強いな、とアリスは思った。
悪魔に取り憑かれていた。
侵食を受けていた。
その影響で、ハルを守りたいという想いが暴走して、結果、虐げることになってしまった。
仕方ない。
悪気はない。
そう、言い訳をすることは可能なのだけど……
レティシアは、全てを自分の責任と言う。
心の弱さを認め、受け入れて、それを公言することはなかなかできることではない。
「……あのね」
「なによ」
「前にも言ったと思うけど、あたしもハルが好き」




