411話 姉妹
「……ごめんなさい」
フラメウは首を横に振る。
そして、一歩、後ろへ下がる。
「領主さまがそんなことをしているなんて……信じられません」
ダメか。
俺の話を信じてくれるか、疑いを持つか。
ここは半々になるだろうな、って思っていたけど……
どうやら、賭けに負けてしまったみたいだ。
「あなたは、たぶん、嘘はついていないと思います」
「なら……」
「ですが、あなたが持つ情報が正しいとは限りません。誤った話を信じているとか、間違いを教えられているとか……そういう可能性もあると思いませんか?」
それはない。
断言できる。
フランを誘拐しようとした連中と領主は裏で繋がっている。
なぜ断言できるのか?
ナインが証言してくれたからだ。
フラメウを信じるか。
それとも、ナインを信じるか。
そういう話になるのだけど……
フラメウには悪いけど、俺はナインを信じる。
彼女は大事な仲間だから。
「では、私はこれで」
「どこへ行くの?」
「……」
「俺の話が本当かどうか、確かめようとしていない?」
「どうして……」
図星だったらしく、フラメウは動揺していた。
いや、まあ。
フラメウは、ものすごくわかりやすい性格をしているからね。
この後の行動くらい、簡単に想像がつく。
尊敬する領主が悪事に手を染めるわけがない。
ならば、自分が調査をして疑念を払拭してみせる。
……たぶん、こんなことを考えていると思う。
でも、それは悪手でしかない。
領主はバカじゃない。
下手に近辺を探れば、手痛い反撃を食らうだろう。
だから、次の手を打つことにした。
「お姉ちゃん!」
「えっ!? ふ、フラン……?」
合図と共にフランがやってきた。
ダメだった時のことを考えて……
というか、ほぼほぼダメだろうな、と考えていたので近くで待機してもらっていたのだ。
「どうして、あなたがここに……?」
「そんなことはどうでもいいの。お姉ちゃん、領主さまから離れて」
「あなたまでそんなことを……」
フラメウは怒ったように眉を寄せて……それでいて、悲しそうな顔をする。
家族にまで否定されたことが堪えているみたいだ。
ちょっと罪悪感。
でも、これもフラメウを巻き込まないためなので、迷わずに突き進む。
「フラメウは、この前、誘拐されかけたよね?」
「はい」
「それは、領主の指示によるものだよね?」
「はい」
「と、いうことだけど……俺だけじゃなくて、妹の言葉も信じられない?」
「そ、それは……」
俺の言葉と妹の言葉。
当たり前だけど、後者の方が重みが強い。
フラメウは迷いと動揺を隠すことができず、足を止めていた。
「お姉ちゃん」
そんなフラメウに向けて、フランは一歩、距離を詰める。
「私は……領主さまを信じることはできない」
「そんな……」
「誘拐された、っていうのもあるけど……でも、それだけじゃなくて、前から色々な嫌がらせをされていたの」
「それじゃあ、この人の言っていることは本当に……」
「うん。ハルさんが、全部、暴いてくれたんだよ」
ちなみに、嫌がらせが領主の指示によるものというのは、ほぼほぼ確信しているけど、証拠はない。
でも、そこはしらばっくれることにした。
今はフラメウを説得することが大事だ。
そのために必要な証拠がないというのなら、勝手に作ってしまえばいい。
……悪人みたいだな、俺。
「お姉ちゃん」
「……フラン……」
フランは、そっとフラメウの手を取った。
それが拒まれることはない。
ただ、すぐに受け入れられるわけでもなくて、握られるままだ。
自分から握り返すことはない。
「私、お姉ちゃんのことが大好きだよ。私とお母さんのためにがんばってくれて、いつも気にかけてくれて、優しくて……大好きなの」
「私も……フランとお母さんが大好きよ。でも……」
「でも?」
「領主さまが、そんなことをする人なんて、そう思うなんて……」
「私と領主さま、どっちを信じる?」
「それは……」
「どっち?」
ぐいぐいとフランが迫る。
気の弱い子に見えていたんだけど……
囮役を引き受けたこともそうだけど、いざという時の勢いはすごい。
「……フランよ」
「なら、決まりだね」
最後は、けっこうな力技のような気もしたけど……
とにかく、フラメウの説得は成功した。
これで気兼ねなく行動に移ることができる。




