405話 我慢
「さっそく釣れたみたいっすね! 悪人共にこの世の地獄を見せてへぐぅ!?」
猪のように飛び出そうとしたサナの尻尾をアリスが掴む。
ぐいっと引っ張られるような形になって、思い切り転んでしまう。
うわ、痛そう……
「えっと……サナ、大丈夫?」
「……」
「サナ?」
「大丈夫じゃないっすよ!?」
サナが、がばっと起き上がる。
そして、涙目でアリスに抗議する。
「アリス! なにをするっすか!?」
「それはあたしのセリフよ。サナ、今なにをしようとしたの?」
「それはもちろん、悪人共をとっ捕まえようと……」
それにしては、やけに物騒なセリフをこぼしていたような?
「はぁ……やっぱり話を聞いていない。ううん。聞いていたんだろうけど、ちゃんと理解していないのね」
「???」
「ハル」
説明してあげて、という感じでアリスがこちらを見た。
頷いて、サナに説明をする。
「いい? ここであいつらを捕まえても、素直に黒幕の情報を教えてくれるとは限らない。というか、知らない可能性もあるよ」
「え、なんでっすか?」
「ああいう危険な役目は、だいたい下っ端だからね。捕まる可能性も高い。そんな連中に、いちいち黒幕の情報を渡すなんてことはしないと思う」
口が固い部下もいるだろうけど、大抵は、尋問や拷問をされれば屈してしまうだろう。
下っ端にそこまでの忠誠心はないだろうし、上も求めていないはず。
だからこそ、捕まるという前提でものを考えて、情報を渡さないはず。
……まあ、間抜けな人はなにもかも情報を全部渡して、筒抜けになってしまうこともあるけど。
「だから、今は捕まえない。連中の後をつけて、アジトを突き止める。そこで黒幕の情報を知っていそうな幹部を探して、そいつを捕まえる。それと可能なら、悪事の決定的な証拠を見つける」
「むぅ……だから、フランが餌っていうわけっすか?」
「うん、そういうこと」
「……師匠は、それでいいっすか?」
「よくはないけどね」
本当なら、フランを危険な目に遭わせたくない。
遠回りな方法で地上げなんてしている以上、敵は、今はまだフランに直接害を加えるつもりはない。
だから、すぐにどうこうなるという危険はない。
でも、それらは推測であって、確たる根拠はない。
もしかしたら、推測が間違っているかもしれない。
あるいは、敵が短気を起こしてフランを傷つけるかもしれない。
そういう可能性を考えると、フランを参加させない方がいいのだけど……
「あそこまでの覚悟を見せられたら、ね」
子供だからと、遠ざけるわけにはいかない。
「……了解っす」
サナは、全部納得した様子じゃない。
色々と納得いかないところがある感じだ。
それでも、作戦に従ってくれるみたいだ。
うん。
サナは、そんな純粋さを残してほしい。
「じゃあ、バレないように後をつけるよ」
「らっしゃー、っす」
「なにそれ?」
「らじゃーと了解をかけた造語っす」
しゃーはどこから?
「……まあいいや」
俺達は時計塔を降りて、フランをさらった連中の後を追いかけた。
――――――――――
バレないように慎重に悪人の後をつけて……
しばらく移動したところで、人気のない倉庫に辿り着いた。
今は使われていないらしく、空の木箱らしきものが高く積まれている。
おかげで身の隠し場所には困らなくて、俺達もこっそりと潜入することができた。
「……ここで黒幕と待ち合わせをしているのかしら?」
そう言うレティシアは、ちょっと焦れている様子だった。
サナと似たところがあるから、受け身となる作戦は苦手なんだろう。
「たぶんね」
「早く出てきてくれないかしら……もう、めんどくさい」
「しっ、誰が来たよ」
倉庫の扉が開いて、人影が現れた。
その人影の正体は……
「ナイン……!?」




