404話 できることをしたい
振り返ると、いつの間にか起きていたフランが勢いよく立ち上がる。
「ふぎゃ!?」
フランに寄りかかるようにして寝ていたサナが床に落ちた。
「フラン……自分がなにを言っているか、わかっているの?」
アリスが困惑した様子で問いかける。
……ちなみに、サナのことはまるで気にしていない。
今更、と考えているのか。
ちょっとかわいそうだった。
「危険な目に遭うかもしれないのよ?」
「その、あの……正直、怖いです」
「だったら……」
「でも!」
フランは強い口調で言う。
その瞳には、確固たる意思が宿っていた。
「みなさんにこんなに良くしてもらっているのに、ただ、それを甘受するだけなんて……私はなにもしないで、施されるだけなんて……そんな恥知らずな人にはなりたくありません!」
「「「……」」」
アリスが目を大きくして驚いた。
それはレティシアも同じで……
たぶん、僕も似たような表情をしていると思う。
フランはまだ子供。
大人が守らないといけない。
そんなことを思っていたんだけど……
ちょっと思い上がっていたかもしれない。
確かに、フランはまだ子供だ。
でも、しっかりとした考えを持っていて、強い覚悟がある。
子供だから、という理由で押し込めてしまうのは失礼だろう。
「うん、わかったよ」
「ハル!?」
アリスが、反対という表情を作るけど、
「アリスは、フランをきちんと納得させられる?」
「それは……」
「難しいなら、フランにも協力してもらおう。うまくいくかどうか、それは不安だけど……そもそもの話、誰が囮をやっても心配だもの」
アリスが囮をしたら?
レティシアが囮をしたら?
サナが囮をしたら?
フランと同じように、大丈夫だろうか? 怪我をしたりしないだろうか? 思惑を敵に見抜かれてひどいことにならないか?
そんなことを考えるのは変わらない。
「そう言われたら、そうだけど……」
「諦めなさい」
「……レティシア……」
「ハルってば、わりと強情だから、こういう時は絶対に譲らないわ。アホだもの」
最後の一言は余計じゃないかな?
「そうね、ハルはそういう人だったわね」
今のセリフで納得するのも、どうかと思うんだけど?
なにはともあれ……
話はまとまった。
「最後に、もう一度聞くけど……フラン、覚悟はいい?」
「はい!」
迷いのない良い返事だ。
うん。
これなら、うまくいくと思う。
「よし。じゃあ、どんな感じで誘い出していくか、作戦を考えていこう」
「はい!」
みんなで作戦を練り……
「あのー……自分には誰も触れてくれないっすか?」
一人、放置されたサナが拗ねてしまうのだった。
――――――――――
ああでもないこうでもないと話し合いを重ねて……
一時間ほどで作戦を練り上げることができた。
完璧とは言えないけど、できる限りの対策は詰め込んだつもりだ。
あまり時間をかけていられないので、これで良しとしよう。
さっそく、行動に移ることにした。
「……」
人気のない通りをフランが一人で歩いている。
やや緊張した顔をしているけど、役者じゃないから、それはもう仕方ない。
うまくいくように、無事に終わるように祈りつつ、上から様子を見守る。
ちなみに……
俺達は、海洋都市で一番高いと言われている時計塔にいた。
フランとの距離は開いてしまうけど、ここからなら街を一望できる。
いざという時、フランを見失うこともないし……
敵が現れた時、見逃す心配もいらない。
「ハル」
「あ……」
ぽんぽん、とアリスが俺の頭を優しく撫でた。
「大丈夫、そんなに心配しないで」
「……顔に出ていた?」
「ものすごく」
アリスはくすりと笑う。
「ごめん……あんなことを言っておいて、俺がこんなに心配するなんて」
「気持ちはわかるわ。でも、大丈夫。私達がいるから、一人で背負おうとしないで」
「うん、ありがとう」
アリスのおかげで落ち着くことができた。
なんでだろう?
彼女が隣にいると、安らぐというか温かい気持ちになるというか……
「師匠!」
ふと、サナが鋭い声を出した。
その視線を追いかけると、フランが先日の男達に囲まれているのが見えた。




