400話 領主のメイドさん
フラメウは屋敷で使う日用品が足りなくなり、それの補充に来たらしい。
うまくいけば屋敷に入れるかも……
そんな打算が半分。
あとは、単純に大変そうだからという理由で、彼女の荷物を持つことにした。
「申しわけありません……助けていただいただけではなくて、手伝ってもらうなんて」
「いいよ、気にしないで。それよりも、これは屋敷に運べばいいの?」
「はい、お願いいたします」
「えっと……」
領主の屋敷って、どっち?
「……ごめん、どこに行けばいいの?」
ちょっとマヌケな質問をしてしまい、フラメウは目を大きくして、
「ふふ」
小さく笑うのだった。
「こちらです」
「あはは……ありがとう」
フラメウの先導で領主の屋敷へ向かう。
「あの……やはり、私も半分持ちます」
荷物を全部持つと、フラメウが申しわけなさそうな顔に。
でも、大丈夫。
「平気だよ。こう見えて、それなりに力持ちなんだ」
あんたは荷物運びがお似合いよ! なんて言われて、レティシアに荷物持ちをさせられていたことがある。
そのおかげで、それなりに力はついたと思う。
今にして思うと……
あれは、レティシアの意地悪というよりは親切心だったのかもしれない。
なにかトラブルが起きた時、自力で対処できるだけの力を身に着けさせるために、そうしていたのかもしれない。
……ただの意地悪、っていう可能性もあるけどね。
「ですが……」
「本当に大丈夫だから。それより、案内をよろしく」
「……かしこまりました」
フラメウは苦笑しつつも、俺の考えを尊重してくれたらしい。
今まで通り、少し前を歩く。
ただ、こちらを気遣っているみたいで、少しスピードが落ちていた。
「トレイターさんは、観光で海洋都市にいらしたのですか?」
「えっと……うん、そんなところかな」
領主とアンジュの婚約を破断させるためにやってきました。
……なんてことは言えないので、適当に話に乗っておいた。
「綺麗なところだから、前々から来てみたいと思っていたんだ」
「どうでしたか、実際に見て?」
「うん、すごく良いところだね」
領主についての良い噂、悪い噂はあるけど……
街そのものについては良い印象が強い。
観光地として栄えているだけじゃなくて……
そこに暮らしている人は元気で、笑顔があふれていた。
ここに暮らしている人は、みんな、街が好きなんだろう。
そういうところは、大体、良いところだ。
アンジュのアーランド……城塞都市が良い例だよね。
「ありがとうございます」
やはり、フラメウは自分のことのように嬉しそうにする。
よほど領主のことを慕っているのだろう?
……話を聞く良いチャンスかな?
「フラメウは、領主さまのところで働いているんだよね?」
「はい。微力ではありますが、毎日、がんばっています」
「領主さまって、どんな人?」
「そうですね……」
少し迷い、やがて言葉を並べる。
「真面目で誠実で、そして優しい人。誰かのために自分を犠牲にできる人……でしょうか?」
「それはまた……」
彼女の話が本当なら、ものすごい聖人だ。
そんな人が、フランの……蒼の庭の嫌がらせに関わっているとは思えないけど……
でも、善人を装っていて、それにフラメウが騙されている、という可能性もある。
あるいは……
考えたくないけど、フランが嘘を吐いている、とか。
うーん。
色々な可能性を考えるとキリがないな。
できれば領主に直接会って、その人となりを確認したい。
とはいえ、さすがにそれは無理か。
なんの肩書もない一介の冒険者が領主に会うなんて……いや、待てよ?
勇者の称号を持つレティシアなら可能かな?
「そういえば、トレイターさんは宿はもう決まりましたか? もしよろしければ、おすすめを紹介させていただきますか?」
考えているうちに話が飛んでしまった。
「あ、それなら大丈夫だよ。もう決まったから」
「そうなのですね、よかったです。ちなみに、どんなところですか?」
「蒼の庭っていうところだよ」
「……っ……」
瞬間、フラメウさんの表情が固くなる。
思い詰めたような顔になって、軽くうつむいてしまう。
いったい、どうしたんだろう?
「そう、ですか……フランのところに……」
「フランを知っているの?」
「フランは……私の妹です」
予想外のことを言われてしまい、ついつい、ぽかーんとしてしまう俺だった。




