40話 何度でも
さきほどの数倍の炎が生まれ、地面をえぐるようにしつつ、アークデーモンに駆けていく。
ここで初めて、アークデーモンから余裕の色が消えた。
険しい顔をして、手の平を前に。
魔法陣が展開されて、俺の魔法を防ごうとする。
俺の魔力が勝つか。
それとも、アークデーモンの防御能力が勝つか。
勝負だ!
ガァッ!!!
着弾。
そして、爆発。
さきほどのエクスプロージョンが、まとめて十数回炸裂したような、そんな爆炎が広がる。
「「「おおおぅ!?」」」
冒険者たちは吹き飛ばされそうになり、必死に地面にしがみついていた。
俺はふんばりつつ、腕を顔の前にやり埃を防ぎながら、アークデーモンから顔を逸らさない。
結果はどうだ!?
「……」
アークデーモンは、変わらずそこに存在し続けていた。
「マジかよ……今のとんでもない魔法でもダメなのか……?」
「見たことがないような威力だったのに……それでも倒せないなんて……やっぱり、ヤツは魔法に対する絶対耐性があるのかよ……」
冒険者たちは絶望しているが、俺は、そんなことはない。
むしろ、希望を抱いていた。
ヤツが展開した魔法陣は壊れたらしく、どこにも見当たらない。
それだけじゃない。
全身のあちらこちらが焼け焦げていて、致命傷には遠いけれど、確かなダメージの跡が見て取れた。
つまり、魔法に対する絶対耐性というのはウソ。
おそらく、上級魔法も効かないために、そんな話がどこからか広がったのだろう。
でも、俺の魔法なら通じる。
ダメージを与えることができる。
ならば、やるべきことは一つ。
「フレアブラストッ!」
「「「もう一回っ!?」」」
冒険者たちが驚いたような声をあげて、
「……!?」
アークデーモンも驚いた様子で、ビクリと震えていた。
そんなアークデーモンに、本日二度目のフレアブラストが激突する。
大気が震えて、豪炎が唸りをあげる。
その炎が収まるよりも先に、俺は第三射を放つ。
「フレアブラストッ!!!」
「「「連射っ!?」」」
舞い上がる業火を、さらなる炎で包み込むかのように、第三射が直撃。
視界一面が炎で埋め尽くされるほどに、大量の火柱が上がる。
……やりすぎただろうか?
ちょっとだけ、タラリと汗が流れる。
ついでに、どうしよう? と迷う。
「……もう一つ、いっておくか!」
相手は上級魔法を涼しい顔をして防ぐ化け物だ。
対して、俺は中級魔法を使用しているだけ。
そのことを考えると、念には念を押しておいて問題はないだろう。
というか、それくらいしないと倒せない相手のはずだ。
なんといっても、悪魔だからな。
「そんなわけで……フレアブラストッ!!!」
「「「まだ撃つのっ!?」」」
四発目。
大地が四度、大きく震えた。
まるで地震だ。
自分でやっておいてなんだけど、迷惑防止罪とかで、後で訴えられたりしないだろうか……?
ちょっと心配になってきた。
「えっと……」
土煙でなにも見えない。
やりすぎたのか、しばらく待っても全然晴れない。
それでも根気よく待ち、ようやく視界が晴れてきた。
完全に視界が回復したわけじゃないけど……土煙の中に、うっすらと人影が見える。
「まだダメか……」
落胆するものの、でも、諦めることはない。
絶対に諦めてやるものか。
「そんなわけで……五発目、フレアブラストッ!!!」
「「「どんだけ!?」」」
うっすらと見えた人影を飲み込むように、炎が吹き荒れた。
再び爆炎と土煙が舞い上がり、視界が塞がれてしまう。
ひょっとしたら、この間に、アークデーモンは攻撃の準備をしているかもしれない。
そのことを考えると、まったく安心できない。
なので、
「フレアブラストッ!」
六発目を叩き込む。
ついでに、
「フレアブラストッ!」
ダメ押しとばかりに、七発目を。
最初に、そこそこの傷を負わせることに成功していたから……
これくらいやれば、それなりのダメージを与えることができるかもしれない。
たぶん、大丈夫。
……大丈夫だよな?
「うーん……やっぱり、念押しでもう一発……」
「「「もうやめてくれぇえええええっ!!!」」」
冒険者たちが泣きながら懇願してきた。
よく見てみると、彼らは飛んできた砂埃をまともに浴びていた。
さらに爆風で何度も転がったらしく、ボロボロだ。
「あ、えっと……ごめん」
なんともいえない気持ちになり、ついつい謝罪してしまう。
悪気はなかったので、できれば許してほしい。
「ええと……ひとまず、そう、アークデーモンだ!」
不意打ちをしかけられてもいいように、最大限の警戒を払いつつ、視界が晴れるのを待つ。
そして……
「まだ生きている!?」
アークデーモンの影が見えた。
俺は咄嗟に魔法を放とうとするが、それを冒険者たちに止められる。
なにごとかと思い、よくよく見てみると……
「……あれ?」
アークデーモンは、消し炭の人形になっていた。
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