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397話 フランの受難

 待つこと一時間。

 フランは、メニューに載っている料理、全部を作ってきた。


 色々な意味で大変だ。

 さすがに断ろうとしたけど、作ってしまったものを元に戻すことはできない。


 せめて、半分は代金を支払うということで話は決着。

 それからごはんを食べるのだけど……


「ふぉおおおおお、うまい、うまいっす!!!」


 サナは目をキラキラと輝かせつつ、次から次に料理に手を伸ばしていた。


 サナの気持ちはよくわかる。

 味がしっかりと染み込んでいるというか、広がりがあるというか……

 お腹がいっぱいになっても、それでもまだ食べたい、って思うくらいおいしい。


 アリスとレティシアも大満足らしく、とろけるような笑顔を浮かべている。

 おいしそうに食べる女の子ってかわいいよね。


 それはともかく。


 本当に手が止まらなくて……

 気がつけば、山ほどあった料理は全て空になっていた。


「はふぅ……大満足っす」

「本当、すごくおいしかったわ」

「やぱい、めっちゃおいしい……マジでやばい」


 レティシアは、満足するあまり、語彙力が貧弱になっていた。


 そんな俺達を見て、フランがおずおずと尋ねてくる。


「あ、あの……ど、どうだったでしょうか? 満足いただけたでしょうか?」

「もちろん。すごくおいしかったよ」

「あ……ありがとうございますっ!」


 とても嬉しそうに笑い、フランは頭をぺこりと下げた。


 そんな彼女を見ていると、この話を持ち出すことが心苦しい。

 たぶん、笑顔を曇らせてしまう。

 それでも、避けたくはない。

 見なかったことにしたくない。


「ところで……さっきの男達は?」

「そ、それは……」

「それに、これだけの料理があって宿も綺麗で……流行らないわけがない。でも、客は俺達以外に誰もいない。なにか理由があるの?」

「……」


 フランは苦い表情をして……

 でも、その事情を話すことはなくて、口を閉じたままだ。


「俺達のことは気にしないでいいよ」

「え……?」

「たぶん、巻き込んだらいけないとか、そういうことを考えているんだよね? フランは優しい子だから」

「……あ……」

「でも、俺達なら大丈夫。こう見えて、そこそこ強いから」

「ハルは、非常識に、っていう言葉が頭につくと思うわ」

「色々と常識が抜けている、っていうのもつくわね」

「やばいっすね」

「えっと……」


 援護をしているのか、それとも逆のことをしているのか、判断に迷う。


「と、とにかく。なにか事情があるんだよね? どこまでできるかわからないけど、力になりたいんだ」

「で、でも……」

「諦めた方がいいわよ」


 アリスが苦笑しつつ言う。


「こうなったハルは、もう止まらないから。おせっかいがすぎるというか、お人好しすぎるというか」

「まったく、面倒なんだから」

「とか言いつつ、レティシアは反対しないっすね」

「むぐっ」


 サナにやりこめられるなんて……と、レティシアはものすごく悔しそうにしていた。

 気持ちはわからないでも……ないかも。


「話してみてくれないかな?」

「……ありがとうございます」


 フランは涙目になりつつ、もう一度、ぺこりと頭を下げた。




――――――――――




「……なるほど」


 事情を聞いて、俺は難しい顔に。


 フランは母子家庭で、二人で蒼の庭をやってきたらしい。

 大変ではあったものの、充実した日が続いていたとか。


 そんなある日、母が病に倒れてしまう。

 それと同時に、さっきの男達のような乱暴者が現れて、嫌がらせをしてくるようになったという。


 一人で全てをやらなくてはいけなくなって……

 乱暴者の嫌がらせにも耐えなくてはならなくて……


 フランは限界だった。

 俺達に事情を説明した後、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったらしく、泣き出してしまった。


 今はなんとか落ち着いたものの……

 少し休ませた方がいいと思い、無理矢理に寝かせてきた。

 サナが様子を見てくれている。


「フランのお母さんが倒れたのと、嫌がらせが始まったのがほぼ同時、っていうのが気になるよね」

「それって、倒れたのも作為的なもの、っていうこと?」

「かもしれない。だって、あまりに都合が良くない? ここまで悪いことが重なるなんて、普通はないよ」

「そうだとして、誰がなんの目的で?」

「うーん……例えば、のっとりとか? 蒼の庭はすごく良い宿だから、それを奪い取ってやる、って考える悪人がいてもおかしくないよ。あるいは、ここは敷地面積が広いから、地上げとか」

「うん……そうね。ありえない話じゃないわ」

「調べるとしたら、そこを中心にして進めていくことになるけど……」

「ちょっと待ちなさいよ」


 アリスとあれこれ話し合っていると、レティシアが口を挟んできた。


「どうしたの? あ、もしかして、もうお腹が空いた? 食いしん坊だなあ」

「違うわよ!!! なんで、そうなるわけ!?」

「印象?」

「あんた、私にどんな印象を持っているのよ!?」


 はあはあと肩を荒くしつつ、レティシアは叫ぶ。


「そうじゃなくて、私達の本来の目的を忘れていない? 領主と婚約したアンジュのことを調べるんでしょ? それなのに、自分から厄介事を背負ってどうするのよ」


 レティシアの言うことはもっともだけど……


「大丈夫」

「なにがよ?」

「ちゃんと、どっちも解決してみせるよ」


 そう言い切った。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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