391話 やらかしていた
「自分のかわいい子分達をいじめたのは、どこのどいつだー!? 天が許しても自分が許さん! さあ、覚悟!!!」
ビシッと妙なポーズを決めるサナ。
物語の影響を受けているみたいで、その台詞も臭い。
というか……
「いったい、なにをしているのさ……」
誇張表現じゃなくて、本気で頭を抱えてしまう。
天使の強制転移で離れ離れになって。
大丈夫かな?
怪我や病気をしていないかな?
って、心配していたのに……
まさか、盗賊のボスになっていたなんて。
「って……あああああぁーーー!!!?」
こちらを見て、サナは目を大きくした。
よかった。
その反応を見る限り、忘れられたわけじゃないみたいだ。
「し、し……師匠ーーーっ!!!」
サナは涙目になって、大きな声を出して。
両手を大きく広げて、こちらに抱きつこうとして……
「ふぎゃ!?」
サッと避けた。
目標を見失い、サナは木の幹に激突した。
恐るべきは、サナが怪我するのではなくて、木の方が折れてしまうことだ。
けっこうな大木だったのに。
「うう……感動の再会なのに、避けるなんてひどいっす」
「あんなに勢いよく突撃されたら、どうにかなっちゃうよ」
「そこは、師匠の愛の力でなんとかしてほしいっす」
大木を突撃でへし折る包容は、さすがに愛があってもどうにもならないよ。
「それよりも……ステイ!」
「わんっ」
ノリが良いサナは、俺の前で膝を揃えて座る。
「「「……」」」
そんなサナを見て、盗賊達は唖然としていた。
目の前の光景が信じられない様子で、誰一人、口を開かない。
「こんなところでなにをしているの?」
「用心棒っす!」
「用心棒?」
「自分、気がついたらよくわからないところにいて……困っていたら、親切な人間が助けてくれたっす!」
「それって、あの人達?」
盗賊を指さすと、サナは首を縦に振る。
「食料とか分けてくれて、色々と助けられたっす」
「なるほど……頭っていうのは?」
「よくわからないけど、頭になってほしい、って頼まれたっす。用心棒みたいなもの、って言われて」
「……それ、引き受けたの?」
「はい! 受けた恩は返さないといけない。だから、自分、しばらく頭になっていたっす!」
「……ああもう」
頭が痛い。
やらかしていないかな? と心配していたけど……
本当にやらかしていたなんて。
助けてもらったとはいえ、盗賊団の頭になるとか、ありえない。
まあ、サナのことだから、単に騙されているだけなんだろうけど。
「ちょっと確認しておきたいんだけど、今まで、こうして戦ったことは?」
「ないっすね。今日が初めての用心棒っす」
「彼らの正体は知っている?」
「親切なおじさん?」
「はぁ……」
よかった。
超えたらいけないラインは超えていないみたいだ。
「あのね、サナ」
「はい!」
「あの人達は盗賊だよ」
「盗賊!?」
「サナはドラゴンだから、いいように利用されていたんだ」
「利用!?」
「仕方ないところもあるかもしれないけど、もうちょっと考えようね」
「考える!?」
……オウム返ししているだけ?
ちょっと。
いや、かなり、今後のサナの教育に不安が出てしまうのだった。
なにはともあれ。
「あなた達の切り札はこんな状態だけど、まだやる?」
「「「……!?!?!?」」」
我に返った盗賊達は、慌てて武器を放して、降参というように両手を上げるのだった。
――――――――――
「こんなところかな?」
盗賊達を縛り、アジトにしていた洞窟の奥に放り込んでおいた。
連中を一度に連れていくことはできないから、近くの街に寄り、通報すればいい。
後は、街の騎士団か冒険者がなんとかしてくれるだろう。
「ん~、師匠♪」
「サナったら、ハルにべったりね」
「……あのドラゴン、焼いてやろうかしら?」
「ずっと離れ離れだったんだから、仕方ないんじゃない? というか、レティシア、妬いているの?」
「は、はぁ!? そんなことあるわけないでしょ! はぁあああ!?」
うん。
そんなことないと思う。
「そういえば、サナ」
「はい?」
「他のみんなの情報、なにか持っていたりしない? 俺達、みんなを探しているんだけど……」
「ああ、それなら、近々アンジュが結婚するらしいっすよ」
「へー、そうなんだ」
……あれ?
「結婚!?」
あまりにもサラリと言うものだから、ついつい流してしまいそうになった。




