389話 前に
「……」
宿の部屋でクロエからもらった資料に目を通す。
クロエが調べたもの。
ゲオルグが調べたもの。
それらの情報をまとめたものだ。
「うーん」
天使は神の使い。
世界を正しい方向に導くことが使命。
そのために仲間を集めていて、ゲオルグは選ばれた存在。
人を捨てることで、強大な力を与えられた。
「大まかなことは説明されているんだけど、細かいところは、ふわっとした内容なんだよね。これじゃあ、本当に知りたいところはわからないな」
天使を通じて、神のことを知りたい。
そう思っていたけど、収穫はゼロ。
「思うようにいかないのは、ちょっともどかしいな」
でも、それが当たり前なのかもしれない。
なんでもかんでもうまくいく人生なんてない。
そういう理不尽に耐えて……
あるいは受け入れて、前に進んでいくしかない。
「ハル」
ノックの後、扉が開いてアリスが姿を見せた。
レティシアも一緒だ。
「なにかわかった?」
「天使の目的は不明、っていうのがわかったかな」
「つまり、なにもわからなかったのね」
「まったく、ハルはどんくさいんだから! そんなの、考えるまでもないじゃない」
「レティシアはわかるの?」
「天使は敵! それが答えよ」
ドヤ顔をして言い放つ。
いや、えっと……
ものすごく反応に困る。
「……レティシアって、悩みなさそうだよね」
「……そうね」
「ちょっと、なによその反応は!?」
――――――――――
「道中、お気をつけて。そして、いつかまた、再会できることを祈っています」
「うん。落ち着いたら、また顔を見せにくるよ」
見送りに来てくれたクロエと挨拶をして、鉄血都市を後にする。
色々なことがあった街。
悪い思い出が大半だけど……
でも、新しい出会いもあった。
それらの思い出を胸に抱きつつ、さようなら、と心の中でも挨拶をした。
「ねえ、ハル。次はどこへ行くの?」
「ひとまず、別の都市に行きたいかな……そこで、みんなの情報を集めないと」
天使や神のことは大事だ。
魔王を継いだ以上、この問題を放置するつもりはない。
力で解決するかどうか、それはわからないけど……
俺なりのやり方で向き合っていきたいと思う。
でも。
それ以上に、仲間の方が大事だ。
アンジュ、ナイン、サナ。
シルファ、クラウディア。
転移でバラバラになってしまったから、まずは、みんなを探したいと思う。
そちらが先決。
絶対的に大事だ。
「みんな、大丈夫かしら?」
「大丈夫……って信じたいけど、不安は拭えないよね」
アンジュとナインはしっかりしているから、たぶん、二人が一緒なら問題ないと思う。
クラウディアも、困難に直面したとしても、それを乗り越える強さを持っている。
ただ……
サナとシルファは心配だった。
二人はすごく強いけど、でも、ちょっと常識が……
いや、かなり……
いやいや、ものすごく……
まあ、そんな感じで、サナとシルファが色々とやらかしていないか心配すぎる。
「大丈夫かな……?」




