表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/547

39話 自分の限界は自分で決める

「く、くそっ、化け物め……くらえっ、ファイアッ!」

「お、おいっ! 待て、あいつはアークデーモンだ。そんな魔法じゃあ……」


 一人の冒険者が魔法を放ち、別の冒険者が彼を止めるような言葉を口にする。


 どういう意味なのだろう?

 不思議に思い成り行きを見守る。


 火球が悪魔に直撃した。

 爆炎が広がり、その漆黒の体を包み込み、爆ぜる。


 いい感じだ。

 ひょっとしたら、今の一撃で倒せたんじゃあ?

 そんなことを思うのだけど……


「……」


 悪魔は健在だった。

 ダメージを受けている様子はまるでなくて、かすり傷一つない。


「な、なんてヤツだ……俺の全力のファイアを受けて、まるで堪えていないなんて……」

「だから言っただろう。ヤツはアークデーモン……魔法は通じない」

「それ、どういうことなんだ?」


 気になる会話に、ついつい横から口を挟んでしまう。

 不思議そうな顔をしたものの、冒険者カードを見せると仲間だと理解してくれたらしく、すぐに説明をしてくれる。


「あいつは、レベル50オーバーの、とんでもない魔物だ。その力は圧倒的だけど、ヤツの真骨頂は他にある。それが……魔法に対する絶対耐性だ」

「絶対耐性?」

「どんな魔法もアークデーモンには通じないのさ。記録によると、上級魔法を100発受けても、平然としていたらしい。くそっ……なんでそんな化け物が、こんなところに……」


 冒険者の説明が正しいとしたら、かなりのピンチかもしれない。

 俺の主な攻撃手段は魔法だ。

 それが通じないとなると、途端に役立たずに成り果ててしまう。


「そ……そんなこと信じられるか! 俺の魔法でアイツを仕留めてやる」


 魔法使い風の冒険者がそう意気込み、前に出た。

 杖を手に、魔力を練り上げる。


 そして……


「エクスプロージョンッ!」


 上級魔法が炸裂した。


 杖の先から赤い線が迸る。

 それはアークデーモンの胸に吸い込まれるようにして消えて……


 直後、大爆発が起きた。


 炎が竜巻のように渦を巻いて、空高く、雲を貫くほどに舞い上がる。

 熱風と烈風が炸裂して、周囲のものを吹き飛ばす。


 炎と衝撃波。

 その二つが中心点で圧倒的な暴力となり、アークデーモンの体を貪っているのだろう。


 ただ、どうなっているのか、詳細はわからない。

 爆炎は未だ続いていて、視界が遮られている。


 ただ、数十メートルは離れている、俺たちのところにも熱波が届くほどで……

 その威力はとんでもないものだろう。

 これならば、悪魔といえど無傷ではいられないはず。

 この場にいる、俺を含めた全員が、そんな希望を抱いた。


 しかし、現実は……


「……」


 ややあって爆炎が収まり、視界が晴れる。

 アークデーモンは……健在だ。

 運命は変わらないというかのように、今回もかすり傷一つない。


 アークデーモンはなにも言わない。

 ただ、埃がついたというように胸元を軽く手で払う。

 それから、ニヤリと口角を吊り上げた。


 まるで、今なにかしたか? と、こちらをあざ笑っているかのようだ。


「そ、そんなバカな……」


 冒険者の手から杖がこぼれ落ちた。

 そのまま地面に膝をついて、がくりとうなだれてしまう。


 きっと、自身が持つ最大の一撃だったのだろう。

 絶対の自信があっただけに、それを打ち破られた時の衝撃は大きい。

 完全に戦意を喪失してしまったみたいだ。


 彼が最大火力を持ち、頼みの綱だったらしく、他の冒険者たちも絶望の表情を浮かべていた。


「……むう」


 このまま、アークデーモンの侵攻を許すわけにはいかない。

 ヤツを街中に入れてしまえば、どれだけの被害が出るか。


 俺も全力でヤツを止めたいところだけど……

 上級魔法が通じない相手に、果たして俺の力は通用するだろうか?


 アリスたちの話によれば、俺の魔力はおかしいらしい。

 それでも、今使用できる中の最大火力は中級魔法。

 俺なんかが相手をできるとは……


「……いや、そういうのはダメだ」


 俺なんかが、と考えても意味はない。

 むしろ、そんなことばかり考えるようになっていたから、長い間、レティシアに支配されてきたんじゃないか?


 もっと前向きに……どんなことでもやってやると、そんな精神で挑まないと。

 それくらい強い意思を持たないと。

 アリスと一緒にいることで、そんな風に考えられるようになった。


「そこの人たち、下がっていて」

「あ、あんたはまだ諦めていないのか……? 無茶だ、あんな化け物、どうにかできるわけがない……すぐに逃げた方が……」

「なにもしないで諦めるわけにはいかないんだ。誰かに言われて道を決めるんじゃなくて、俺が自分で選ばないといけないんだ」


 一歩前に出た。

 そんな俺を新しい挑戦者と見なしたのか、アークデーモンがわざわざ歩みを止める。

 そして、手を差し出して……指をクイクイとやり、挑発をする。


 やってやろうじゃないか。


 バカにされた怒りではなくて、挑戦してやろうという闘志が湧き上がる。

 まずは全力で……


「ファイアッ!」


 一番使い慣れている、初級の火魔法をぶつけてやる。

 炎が生き物のようにうねり、アークデーモンを包み込む。


「なっ!? なんだ、今の魔法は……!?」

「ファイア、なのか……? しかし、この威力、どう見てもエクスプロージョンだが……」


 冒険者たちがざわつく中、炎が収まる。

 アークデーモンは……健在だ。

 言葉を発することはないものの、腕を組み、余裕だぞ、という態度をこちらに見せつけていた。


「とんでもない威力だったが……ダメか……」

「もしかしたら、とは思ったんだが……」

「いや、まだ全部は試していない」

「「え?」」

「次は、俺の本当の全力だ」


 今のは、いわば準備運動のようなもの。

 ほどよく魔力を消費したことで、体も温まってきた。

 今なら、過去にない一撃を繰り出すことができるような気がする。


 さあ……いくぞ!


「フレアブラストッ!」

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ