39話 自分の限界は自分で決める
「く、くそっ、化け物め……くらえっ、ファイアッ!」
「お、おいっ! 待て、あいつはアークデーモンだ。そんな魔法じゃあ……」
一人の冒険者が魔法を放ち、別の冒険者が彼を止めるような言葉を口にする。
どういう意味なのだろう?
不思議に思い成り行きを見守る。
火球が悪魔に直撃した。
爆炎が広がり、その漆黒の体を包み込み、爆ぜる。
いい感じだ。
ひょっとしたら、今の一撃で倒せたんじゃあ?
そんなことを思うのだけど……
「……」
悪魔は健在だった。
ダメージを受けている様子はまるでなくて、かすり傷一つない。
「な、なんてヤツだ……俺の全力のファイアを受けて、まるで堪えていないなんて……」
「だから言っただろう。ヤツはアークデーモン……魔法は通じない」
「それ、どういうことなんだ?」
気になる会話に、ついつい横から口を挟んでしまう。
不思議そうな顔をしたものの、冒険者カードを見せると仲間だと理解してくれたらしく、すぐに説明をしてくれる。
「あいつは、レベル50オーバーの、とんでもない魔物だ。その力は圧倒的だけど、ヤツの真骨頂は他にある。それが……魔法に対する絶対耐性だ」
「絶対耐性?」
「どんな魔法もアークデーモンには通じないのさ。記録によると、上級魔法を100発受けても、平然としていたらしい。くそっ……なんでそんな化け物が、こんなところに……」
冒険者の説明が正しいとしたら、かなりのピンチかもしれない。
俺の主な攻撃手段は魔法だ。
それが通じないとなると、途端に役立たずに成り果ててしまう。
「そ……そんなこと信じられるか! 俺の魔法でアイツを仕留めてやる」
魔法使い風の冒険者がそう意気込み、前に出た。
杖を手に、魔力を練り上げる。
そして……
「エクスプロージョンッ!」
上級魔法が炸裂した。
杖の先から赤い線が迸る。
それはアークデーモンの胸に吸い込まれるようにして消えて……
直後、大爆発が起きた。
炎が竜巻のように渦を巻いて、空高く、雲を貫くほどに舞い上がる。
熱風と烈風が炸裂して、周囲のものを吹き飛ばす。
炎と衝撃波。
その二つが中心点で圧倒的な暴力となり、アークデーモンの体を貪っているのだろう。
ただ、どうなっているのか、詳細はわからない。
爆炎は未だ続いていて、視界が遮られている。
ただ、数十メートルは離れている、俺たちのところにも熱波が届くほどで……
その威力はとんでもないものだろう。
これならば、悪魔といえど無傷ではいられないはず。
この場にいる、俺を含めた全員が、そんな希望を抱いた。
しかし、現実は……
「……」
ややあって爆炎が収まり、視界が晴れる。
アークデーモンは……健在だ。
運命は変わらないというかのように、今回もかすり傷一つない。
アークデーモンはなにも言わない。
ただ、埃がついたというように胸元を軽く手で払う。
それから、ニヤリと口角を吊り上げた。
まるで、今なにかしたか? と、こちらをあざ笑っているかのようだ。
「そ、そんなバカな……」
冒険者の手から杖がこぼれ落ちた。
そのまま地面に膝をついて、がくりとうなだれてしまう。
きっと、自身が持つ最大の一撃だったのだろう。
絶対の自信があっただけに、それを打ち破られた時の衝撃は大きい。
完全に戦意を喪失してしまったみたいだ。
彼が最大火力を持ち、頼みの綱だったらしく、他の冒険者たちも絶望の表情を浮かべていた。
「……むう」
このまま、アークデーモンの侵攻を許すわけにはいかない。
ヤツを街中に入れてしまえば、どれだけの被害が出るか。
俺も全力でヤツを止めたいところだけど……
上級魔法が通じない相手に、果たして俺の力は通用するだろうか?
アリスたちの話によれば、俺の魔力はおかしいらしい。
それでも、今使用できる中の最大火力は中級魔法。
俺なんかが相手をできるとは……
「……いや、そういうのはダメだ」
俺なんかが、と考えても意味はない。
むしろ、そんなことばかり考えるようになっていたから、長い間、レティシアに支配されてきたんじゃないか?
もっと前向きに……どんなことでもやってやると、そんな精神で挑まないと。
それくらい強い意思を持たないと。
アリスと一緒にいることで、そんな風に考えられるようになった。
「そこの人たち、下がっていて」
「あ、あんたはまだ諦めていないのか……? 無茶だ、あんな化け物、どうにかできるわけがない……すぐに逃げた方が……」
「なにもしないで諦めるわけにはいかないんだ。誰かに言われて道を決めるんじゃなくて、俺が自分で選ばないといけないんだ」
一歩前に出た。
そんな俺を新しい挑戦者と見なしたのか、アークデーモンがわざわざ歩みを止める。
そして、手を差し出して……指をクイクイとやり、挑発をする。
やってやろうじゃないか。
バカにされた怒りではなくて、挑戦してやろうという闘志が湧き上がる。
まずは全力で……
「ファイアッ!」
一番使い慣れている、初級の火魔法をぶつけてやる。
炎が生き物のようにうねり、アークデーモンを包み込む。
「なっ!? なんだ、今の魔法は……!?」
「ファイア、なのか……? しかし、この威力、どう見てもエクスプロージョンだが……」
冒険者たちがざわつく中、炎が収まる。
アークデーモンは……健在だ。
言葉を発することはないものの、腕を組み、余裕だぞ、という態度をこちらに見せつけていた。
「とんでもない威力だったが……ダメか……」
「もしかしたら、とは思ったんだが……」
「いや、まだ全部は試していない」
「「え?」」
「次は、俺の本当の全力だ」
今のは、いわば準備運動のようなもの。
ほどよく魔力を消費したことで、体も温まってきた。
今なら、過去にない一撃を繰り出すことができるような気がする。
さあ……いくぞ!
「フレアブラストッ!」
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