表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

389/547

388話 厳しい状況だとしても

 ゲオルグとの戦いに決着がついて、三日が経った。


 良く言えば革命、悪く言うとクーデター。

 それで領主が交代したのだから、最初はとんでもない混乱だった。


 頭が痛いところは、ゲオルグは圧政を敷いていたものの、ある程度の民はそれを受け入れていた……というところ。

 そうすることが正しいと信じて、ゲオルグを支持していた。


 だから領主交代に納得できず、騒動があちらこちらで起きて……

 泥沼の内乱に発展しようとした。


 それを収めたのはクロエだ。




――――――――――




「私は簒奪者です。父を討ち、その座を奪い取りました」


「愚かな行為と怒る人がいるでしょう。親不孝者と嘆く人がいるでしょう。私は、それらの言葉を全て受け入れたいと思います。否定することなく、受け止めましょう」


「しかし、私は、私の行いを間違っているとは思いません。こうすることが正しい道だったと、そう信じています。私が私自身を否定するなんて、そんな虚しいことはしません」


「私に時間をいただけないでしょうか? 私の行いが正しいか、それとも間違っていたか。みなさんに判断していただきたいのです。そのために時間が欲しいのです」


「私は、この都市を守るために全力を尽くしましょう。この命を捧げましょう。しかし、私ではダメだとみなさんが判断したのならば、その時は、この首を捧げましょう」


「私は、クロエ・フェルナルド……鉄血都市の新しい領主です」




――――――――――




 ……そんなクロエの演説は人々の心に届いた。


 不信感を抱いている人はたくさんいる。

 クロエのように、反乱を考えている人もいるだろう。


 でも……

 クロエなら大丈夫だと思う。

 立派に演説をする彼女を見て、そんなことを感じた。


 そうして混乱が収まり、今に至る。


「おまたせしてしまい、申しわけありませんでした」


 執務室を訪ねると、目の下にクマを作ったクロエの姿が。

 この三日間、たくさんの仕事を抱えて、あまり寝ていないらしい。


 ちょっと心配だけど……

 でも、俺にできることはないし、できることがあったとしても彼女達だけでやっていかなくてはならない。

 ずっとここにいるわけじゃないのだ。


「こちらが例の資料になります」

「ありがとう」


 ゲオルグと天使に関する資料を受け取る。

 今回の報酬として用意してもらったものだ。


 辺境の地に飛ばされて。

 仲間と離れ離れになって。


 ひどい状況が続いていたけど、でも、天使の情報を得ることができた。

 ひとまず、よしとしておこう。


 ……そう考えないとやっていられない、っていうのもあるけどね。


「これからどうされるのですか?」

「それは……」

「……あの!」


 答えるよりも先に、クロエが大きな声を出した。

 そして、すがり、求めるような視線をこちらに向ける。


「私は……あなたをお慕いしております」

「それは……」

「出会ったばかりで、どうして? と思われるかもしれませんが……この心の熱は本物です。確かなものです」

「……」

「私と一緒にいてくれませんか……?」


 以前、アリスにも好意を伝えられたことがある。

 彼女に甘える形で返事は保留中だ。


 でも……

 今回はそういうわけにはいかない。


 だって……俺達は旅立つから。


「ごめん」

「そう……ですか」

「そう言ってもらえることはすごくうれしいよ。ありがとう。でも……」

「いえ、大丈夫です。そこまでで」


 途中でストップがかかった。


 先の台詞を予想して……

 というよりは、聞きたくなかったのかもしれない。


「革命は成功しましたが、全てうまくいくほど、世の中甘くありませんね」

「……難しいね」


 ごめん、と謝ろうとして、すぐに言葉を飲み込んだ。

 さすがにそれは失礼だ。


「ただ……」

「はい?」

「こんなことを言うのはなんだけど、あんな事件の後であれだけど……楽しかったよ」

「……」


 クロエが目を大きくした。


「クロエと一緒に過ごした時間、すごく楽しかった。うん、楽しかったんだ」

「……はい」

「だからなんだ、っていう話なんだけど……でも、伝えておきたくて」

「はいっ」


 こちらこそと言うように、クロエはにっこりと笑うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ