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385話 敵を騙すには味方から

「……うそ……」


 目の前でハルとレティシアが光に飲み込まれてしまう。

 ハルは防御魔法を使っていたけど、それも意味はない様子だった。


 光が収まり……

 二人の姿は消えていた。


 慌てて左右に視線を走らせるけど、やはり二人の姿はない。

 どこにも……ない。


「そんな……」


 膝から力が抜けて、アリスはぺたんと腰を落としてしまう。


 ハルとレティシアは跡形もなく消えた。

 二人が……死んだ。


 そんなことは認めたくないけど、でも、目の前の現実がそれを許してくれない。


「人間にしてはなかなかやる方だった」


 己の勝利を確信して、ゲオルグが笑う。


「しかし、所詮は人間。神の使徒である私に敵うはずがない!」

「……よくもっ」


 アリスは剣を握り立ち上がる。


 ハルは大事な人だ。

 幼馴染というだけではなくて、愛している人だ。

 代わりなんて存在しない、世界で唯一の人だ。


 レティシアも大事な人だ。

 一緒に過ごした時間は短いものの、幼馴染なのだ。

 色々とあったけれど、彼女のことは好きだ。


 その二人が奪われた。


 許せない。

 許せない。

 許せない。


 激情が湧き上がり、心が支配される。

 熱い感情に従い、アリスは剣を構えた。


「まだ戦うか? そちらの最大戦力は消えた。そして、残りはボロボロの連中ばかり。勝ち目なんてないぞ?」

「二人の仇を討つわ」

「ふむ……怒りに支配されているが、かといって、闇雲に飛び込んでくるわけでもない。どのような時でも冷静に行動できるというのは、一種の才能だ。どうだ? その才を神のために使うつもりはないか?」

「……」


 一瞬、アリスは迷う。


 もちろん、ゲオルグの話に乗るつもりは欠片もない。

 ただ、うまい具合に話を繋げれば、神の情報を得ることができるかもしれない。

 そうすれば……


「……情報を得て、それで……?」


 どうするというのだ?

 ハルは死んだ。

 レティシアも死んだ。


 一人だけ残された。

 それで、次はなにをしようというのか?

 二人がいないのに、生きる意味なんてあるのだろうか?


「私は……」

「神の力を前に心が折れたか。やはり人間は脆い」


 ゲオルグに屈したわけではない。

 ハルとレティシアが死んでしまったことに絶望を感じただけ。


 アリスはそんなことを思うが、もう訂正する気力も残っていない。


「スプライトさん!」


 クロエがなにか叫んでいるが、動く気力はない。

 考える気力もない。


 このまま二人の後を……


「上ですっ!!!」

「……上?」


 クロエの必死すぎる叫び声に、ついつい反応してしまう。

 アリスはゆっくりと視線を上げると……


「アイシクルソード!」


 上空から落下してきたハルが、氷の剣を生成してゲオルグに斬りかかった。




――――――――――




「がっ!?」


 肩から腹部の辺りを切り裂かれて、ゲオルグはふらふらと後退する。

 すでに傷の再生は始まっているけど、痛みはそこそこあるらしく、動きが鈍い。


「ハル!」

「うわっ!? あ、アリス……?」


 いきなりアリスに抱きつかれてしまう。

 「むっ」とレティシアがジト目になるけど、そちらを気にする余裕はない。


「ど、どうしたの? いきなり」

「だって、死んじゃったかと思って……」

「ごめん、心配かけて。でも、この通り生きているよ」

「でも、どうやって……?」

「さっきのは幻覚よ」


 一緒に空から降りてきたレティシアが説明する。


「あいつの隙を作るために、幻覚を攻撃させて油断を誘ったのよ。私達は宙に飛んで逃れていたわ」

「ゲオルグの攻撃は強い光を放つから、ちょうどいい目眩ましになったんじゃないかな」

「……そんな作戦、聞いてないんだけど」

「仕方ないじゃない。さっき思いついたばかりで、相談する時間なんてなかったし。それに、敵を騙すには味方から、って言うじゃない」


 レティシアがドヤ顔で言い、


「……もう、もうっ!」

「いた!? いたたた!」


 八つ当たりされてしまう俺だった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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