384話 勇者の力と勇者の知能
ふっ……と、レティシアの姿が消えた。
いや。
目に止まらないほどの超高速で動いたから、消えたように見えただけだ。
レティシアの動きを追うことができないのはゲオルグも同じ。
超常的な力を手に入れたものの、完全に扱うことができず、その影響が出ているようだ。
叩くなら今。
それを本能で察したのか、レティシアは背後から強襲をしかける。
「うっとうしいから!」
まず最初に縦の斬撃。
振り下ろした直後、なにかにあたったかのように剣が跳ね上がり、別の角度から叩きつける。
「さっさと!」
横。
斜め。
縦。
もう一回斜め。
何度も何度も斬撃を飛ばす。
「死になさいっ!!!」
トドメとばかりに、暴言を吐きつつ、上級剣技を炸裂させた。
もう勇者じゃなくて、悪の組織の幹部だ。
さぞかし高笑いが似合うと思う。
「ちょっと、ハル!」
「えっ」
「あんた今、変なこと考えていたでしょう!? 後でおしおき!」
なんていう地獄耳……
「その前に……」
レティシアは細切れにされたゲオルグを睨みつける。
細切れにされているが、ゲオルグからは血が流れていない。
本格的に人間を辞めてしまったのだろう。
「こいつの始末ね! ライジング・スマッシュ!!!」
天を突くような大上段の構えから放つ、威力のみを追求した上級剣技。
レティシアのオーラが剣に付与されて、光り輝いていた。
ハンマーで叩き潰すかのように振るわれて……
ガァッ!!!
ゲオルグを粉々に砕いて、さらに床も砕いてしまう。
「わわわっ!?」
今までの戦闘でダメージが蓄積されていたらしく、そのまま床が崩落してしまう。
みんな、宙に投げ出されてしまうのだけど……
「アリス!」
「ひゃ!?」
俺はアリスを両手で抱えて、二階の床に着地した。
クロエや他のみんなは……
よかった。
みんなで協力することで、怪我をすることなく降りることができたみたいだ。
「え、えっと……ハル?」
「アリスは怪我はない? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だけど……」
「そっか、よかった」
「その笑顔やめて。こんな体勢で、そんな笑顔を向けられたら……」
アリスはすごく恥ずかしそうにしていた。
なんで……あ。
これ、いわゆるお姫様抱っこだ。
でもって、落とすまいとしっかりと抱えたため、密着度合いが……
「ご、ごめん!」
「う、ううん。いいの」
慌ててアリスを床に降ろして離れた。
「……」
「……」
なんとも言えない微妙な空気。
おかしい。
戦闘中のはずなのに、なんだか甘酸っぱい雰囲気に……
「は~~~るぅうううううぅ?」
地の底から響くような声。
レティシアが目をギロリとさせつつ、こちらを睨みつけてきた。
「私が必死に戦っている間、そいつとなにイチャイチャしてるのかしら……?」
「いや、えっと……って、危ない?!」
「え?」
時間を逆再生するかのように、アリスの背後でゲオルグが復活しつつあった。
まさか、粉々にされても再生してしまうなんて。
それはレティシアも予想外だったらしく、完全に油断していた。
ゲオルグに無防備に背中を晒して……
「シールド!」
慌ててレティシアをこちらに抱き寄せて、さらに防御魔法を唱えた。
魔法の盾とゲオルグが放つ光が衝突。
一瞬、均衡を保つものの……
すぐに光が圧倒してしまい、魔法の盾は消滅してしまう。
それでも光が迫り……
「やばっ……!?」
避けることはできなくて、俺とレティシアは光に飲み込まれてしまう。




