380話 あまり意味はない
「これで力の差は理解しただろう」
ゲオルグが勝ち誇った顔で言う。
余裕の表情を浮かべて。
勝利を確信している様子だった。
「圧倒的な攻撃力を持つだけではなく、不死に近い驚異的な再生能力。これこそが天使の力だ。お前達に勝ち目はない」
「くっ……」
クロエ達が怯んでしまう。
常識外の力を見せつけられて、すっかり萎縮してしまったみたいだ。
ただ、諦めの悪い人はまだここに。
「なら、あんたはどう!?」
「隙だらけよ!」
レティシアとアリスが同時に前へ出た。
左右から挟み込むように駆けて、それぞれ同時に剣を振る。
タイミングはぴったり。
いつの間に連携攻撃の練習をしていたんだろう?
二人の斬撃の目標は、天使じゃなくてゲオルグ。
命令する者がいなくなれば天使も止まる、と考えたんだろう。
ただ……
この短時間で考えつくような方法について、ゲオルグが対策を練っていないわけがない。
「甘いな」
「「なっ!?」」
見えない壁に当たったかのように、ギィンッ! と二人の剣が弾かれる。
その刃がゲオルグに届くことはない。
たぶん、あらかじめ魔法の盾を展開しておいたのだろう。
天使の力によるものなので、効果時間は通常よりも長い。
もしかしたら永続的なものかもしれない。
攻撃はバッチリ。
守備もバッチリ。
攻防共に完璧だ。
……と、普通ならそう思うかもしれない。
「なら、今度は俺が試してみようかな」
アリスとレティシアに続いて前に出る。
天使の力を目の当たりにして、俺が思ったこと。
それは……そんなに大したことないのでは? というものだった。
強力な攻撃を有している。
でも、咄嗟の防御で防ぐことができた。
不死に近い再生能力を有している。
でも、無敵に近い結界を持つ魔人に比べたら、まだかわいいものだ。
と、いうわけで……
天使は驚異だけど、でも、魔人と比べるとあらゆる面で劣っている。
その魔人を撃破した経験があるから、絶体絶命とは感じなかった。
「というわけで、いくよ」
「「っ!?」」
俺が魔力を練り上げるのを見て、アリスとレティシアは顔を引きつらせた。
そして、慌てた様子でクロエ達を連れて後ろに下がる。
その様子を見たゲオルグは怪訝そうな顔に。
「なんだ? なにをするつもりだ?」
「大したことじゃないよ。ただ単に、中級魔法を使うだけ」
「中級魔法? なんだ、それは。ハッタリか? それともヤケになったのか?」
ハッタリでもヤケでもない。
それをすぐに証明してみせる。
「フレアブラスト」
瞬間、世界が白に染まる。
超高温の炎は太陽のように輝いていた。
熱波と衝撃が吹き荒れる。
ただ、それはあくまでも二次反応。
「!?」
白く輝く炎が天使に迫る。
ここで、天使は初めて防御行動に出るけど、遅い。
豪炎が天使を飲み込んだ。
アリスとレティシアの攻撃のダメージがまだ残っていたのだろう。
さきほどの剣筋に沿って体が分離していく。
手足が胴体から分かれて、さらに複数の欠片になって……
「!?!?!?」
灼熱、豪炎、烈火……それらの猛威に天使は必死になって抗おうとする。
でも、全てが遅い。
天使は必死になって防御結界を展開するものの、展開した直後、すぐに壊れてしまう。
壊れた体を再生させようとするものの、それよりも破壊する速度の方が上だ。
天使の体が少しずつ塵になって……
いや。
それ以上に分解されていって、欠片も残すことなく消滅する。
それはほどなくして全身へ広がり……
「うん、こんなところかな?」
魔法の効果が収まり……
天使は欠片も残さずに消えてしまった。
再生するのなら一撃で完全に消滅させてしまえばいい。
わりと簡単な話だ。




