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38話 天敵

「ふっ……!」


 すれ違いざまに炎の剣を振るい、魔物の胴体を焼き切る。

 確かな手応えがあったことを確認した後、振り返る。


 こちらの隙をつくように、岩の体を持つ巨人が迫っていた。

 空気が震えるような唸り声を響かせつつ、拳を叩きつけてくる。


「そういうことはしないでほしいんだけど……!」


 攻撃を避けつつ、舌打ち。

 こんなヤツを放置していたら、街が壊されてしまう。

 すでに石畳の道路が、今の一撃で粉砕されていた。

 被害が家に及ばないように、うまく立ち回らないと!


「こっちだ!」


 大きな声を出して注意を引く。

 同時に石を投げて、さらに挑発しておいた。


「ゴッ……!」


 怒るような声を響かせると、魔物は地響きを立てながら、俺を追いかけてきた。

 いいぞ。

 そのまま、俺を追いかけてくるんだ。


 少し走ったところで、公園にたどり着いた。

 遊具が壊されてしまうと、子供たちが遊べなくなってしまうけど……

 そこは勘弁してほしい。

 家が壊されるよりは遥かにマシだ。


「ガガッ……!」


 岩の魔物はそこらに生えている木を片手で引っこ抜くと、それを槍のように投擲してきた。


 でも、俺は意味もなくここに逃げたわけじゃない。

 これくらいの広さがあれば問題ないだろうと、そう考えての逃走だ。


 つまり……

 ここなら、全力でも問題はないよな?


「ファイアッ!」


 紅蓮の炎が放たれる。

 初級魔法ではあるが、みんなの言葉を借りるなら、本来ありえないはずの威力を秘めた規格外の一撃。

 これならば! と思う、必殺の攻撃だ。


 その結果は……


「……やばい」


 投擲された木を一瞬で消し炭にして……

 岩の魔物を融解させて、上半身を消し飛ばして……

 ついでに、その後ろの木々を燃やし、空に炎の舌が伸びた。


 放つ角度を間違えていたら、家を直撃していたかもしれない。

 一応、念の為にと空の方に向けていたのだけど……

 どうやら、それは正解だったみたいだ。


「うーん……これだけの広さがあっても、今みたいな結果になるのか。街中とか、場所によっては厄介だな、これ……時間がある時に、色々と練習した方がいいかも」


 まあ……それは今後の課題だ。

 今は、この事態をなんとかして収束させないと。


 今の岩の魔物で、倒したヤツは10匹目かな?

 あと、何匹残っているのやら……


 先を考えると、疲労に襲われてしまうが……

 でも、諦めるなんてことはしない。

 俺にできることがあるのなら、なにかをしたいと思う。

 今までは、レティシアの言いなりで、なにもできなかったから……

 今こそ……と、思う。


「よしっ、がんばるか!」


 俺は気合を入れ直して、再び街を駆けた。




――――――――――




「……おいおい、なんて力だよ」


 少し離れたところで隠れて、ハルの様子を見ていたジンは、絶句していた。


 ハルが相手をした魔物は、ストーンゴーレムというものだ。

 高い攻撃力と物理耐性を持つ。

 レベル35以上でなければ、倒すことは難しいといわれている。


 それなのに、ハルは瞬殺してみせた。


「アレが兄ちゃんの力、っていうわけかよ……とんでもねえな。戦うような事態を避けられて、ホント、ラッキーだな」


 もしも、ハルと戦うことになっていたら?

 今の魔法で消し炭になっていたかもしれない。

 そんな未来を想像したジンは、引きつった笑みを浮かべた。


「ホントなら、さっさと逃げるのが賢いやり方なんだろうが……」


 ジンは凶悪な笑みを口元に貼りつける。


「ちとやり返しておかねえと、おさまりがつかねえよな」


 コレを使うことはないだろう。

 そう思っていた切り札を、ジンは切ることにした。


「兄ちゃんは、どうやら魔法使いタイプみたいだな。なら、どれだけの力を持っていようが、こいつに敵うことはない」


 ジンが用意した魔物は、街の外に出現した。

 あまりにサイズが大きいため、さすがに街中に忍ばせておくことはできなかったのだ。


 その魔物の名前は、アークデーモン。

 地獄に住むと言われている悪魔だ。


「アークデーモンは、魔法に対する絶対耐性を持つ。どんな魔法も通じることはないからな。魔法使いキラー、っていうやつだ。さて……兄ちゃんは、アイツにどう立ち向かうかな? そこだけ見学させてもらって、おいとまさせてもらうぜ」




――――――――――




 強大な圧を感じて、俺は南門に急いだ。

 アリスとサナの姿はない。

 代わりに、複数の冒険者が見えた。


 彼らはある一点を見て、体をガクガクと震わせている。

 俺もその視線を追いかけた。


 3メートルほどの巨体が見えた。

 角と翼。

 それと、細く長い尻尾。

 体は細く、オーガなどと比べると簡単に折れてしまいそうだ。


 しかし、圧はまったくの別次元にあり、恐怖に飲み込まれてしまいそうになるほどだ。

 冒険者たちが怯えてしまうのも無理はない。


 悪魔のような魔物は、槍を手に、ゆっくりと歩いてアーランドへの進軍を開始した。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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