376話 そんなものは意味がない
陽動のおかげで屋敷内の兵士の数は少ない。
時折、遭遇してしまうものの、それでも少数で簡単に蹴散らすことができた。
「精霊よ!」
「トリプルスラッシュ!」
アリスとレティシアが、それぞれの技で兵士を昏倒させた。
レティシアは勇者なので、その実力は言わずもがな。
アリスも密かに鍛錬を続けていたみたいで、精霊と契約した力を使い、獅子奮迅の活躍を見せている。
二人共、さすがだ。
俺?
余計なことはしないで、と後をついていくだけ。
ちょっと寂しい。
「……ものすごく加減すれば、いけるかな?」
「「大惨事になる未来しか見えないからやめて」」
「ハイ」
二人揃って反対されて、従うしかない。
悲しい……
「こうも簡単にいくと、なにかの罠かと疑ってしまいますね」
クロエが言うように、俺達は快進撃を続けていた。
領主の屋敷へ突入。
次から次に兵士が現れるけど、全て問題なく蹴散らしている。
もうすぐ領主の喉に牙を突き立てることができる。
ただ、普通に考えるともっと苦戦するはずだ。
思いもよらない敵とか罠とか。
そういうもので足止めされてもおかしくないのに、それがない。
クロエが罠を疑うのも無理はないだろう。
「たぶん、それはないんじゃないかな」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「みんなが頼りになるから」
アリスとレティシアは強い。
それに、レジスタンスも強い。
それも、思っていた以上に。
だから順調に進んでいるのだろう。
「でも、時間はかけられないけどね」
領主もこちらの狙いに気づいて、各地に散らせた兵士を呼び戻しているだろう。
あまり時間をかけてしまうと挟撃に遭う。
だから、のんびりするわけにはいかない。
足止めをくらうわけにはいかない。
「ハル、気をつけて」
「なんか変なのがいるんですけど」
アリスとレティシアの視線の先……通路を塞ぐような大きなゴーレムがいた。
普通のゴーレムは石や土でできているんだけど、あいつは、表面がキラキラと輝いている。
鏡……かな?
「はははっ、このクリスタルゴーレムの前に朽ち果てるがいい!」
「クリスタルゴーレム……?」
「ありとあらゆる攻撃を反射する、無敵の番人だ。魔法だけではなくて、刃などの物理攻撃も弾いて、本人の元へ受け返す! こいつがいれば、お前達はこれ以上奥へ進むことはできないというわけだ!」
丁寧な説明、ありがとう。
どうして、悪人ってこうやって色々と説明してくれるのかな?
子供がおもちゃを自慢する感覚と同じなのかな?
「ダブルスラッシュ!」
「ちょっ……」
説明を聞いていたのか聞いていないのか、レティシアがいきなり斬りかかった。
一足でゴーレムとの間合いを詰めて、二呼吸目で剣を払う。
速度、威力、タイミング。
どれも申し分ない。
普通なら、ゴーレムは両断されるのだけど……
「なっ!?」
キィーンと甲高い音がして、レティシアの剣が弾かれた。
彼女は顔をしかめ、ゴーレムを蹴って反転。
そのまま後ろへ飛んで距離を取る。
「なんでも反射するっていうの、本当みたいね」
レティシアの剣が弾かれた時、刃の軌跡に色がついたように、宙に孤を描いていた。
あれに触れていたらスパッと切れていただろう。
「厄介な敵だね」
「大丈夫よ」
「ほら、ハル。いきなさい」
アリスとレティシアに背中を押される。
「え? え?」
「こういう時はハルの出番よ、がんばって」
「こんな時くらい役に立ちなさいよね」
「……なんか納得いかない」
都合のいいアイテム扱いされているような。
でも、二人の言いたいことも理解できたので、素直に前へ。
ゴーレムに手の平を向けて、魔力を練り上げる。
「はははっ、今のを見ていなかったのか? クリスタルゴーレムはどんな攻撃も反射する! 魔法なんて使えば、貴様らはここで終わりだ」
「そういう台詞を口にしたら、大体終わりだよね」
典型的な悪役だなあ、と呑気な感想を抱きつつ、魔法を唱える。
「ファイア」
威力はほどほどに。
ただし、精度は針の穴に糸を通すような感覚で。
狙いは一点。
ゴーレムの頭部に炎を収束させて、槍のように撃ち貫く。
「なぁ!?」
キィイイイーーーン! という音を響かせて、ゴーレムがバラバラに砕け散った。
「ば、ばかな……クリスタルゴーレムが……」
「なんでも反射できる、なんてものは存在しないよ」
そんなものがいたら無敵だ。
一定以上の威力や、一点突破の精密性の高い攻撃を受ければ……この通りだ。
「さすが、ハルね。こういう時は、とんでも魔法は役に立つわ」
「ふふん、褒めてあげてもいいわよ? ほら、頭を撫でてあげる」
アリスとレティシアは、なぜか自分のことのようにドヤ顔をして、
「……」
クロエ達レジスタンスは、唖然とするのだった。




