374話 作戦開始、その行方は?
……そして、作戦開始の時間になった。
ゴォンッ!!!
遠くの方から爆発音が響いてきた。
二つ目の陽動の開始だ。
詳細は聞いてなくて、時間になればわかるということだったけど……
「なんか、ものすごく派手だね……?」
「私達が危険だと思ってもらうためには、ある程度、思い切る必要がありました。そうでないと、より多くの兵士を引き剥がすことはできませんから」
クロエは毅然とした表情で言う。
その顔に動揺の色はまったくない。
計画通り……ということかな。
「でも……街は大丈夫なの? 被害が出ていたりしない?」
「人的被害はゼロに抑えるように指示しています。建物に関しては、ある程度は出ているでしょう」
「……それでいいの?」
「仕方がありません」
よくは思っていないらしく、クロエは苦い顔をしていた。
ただ、中止を命令することはない。
予想の範囲内なんだろう。
そして、多少の被害は許容している。
ちょっともやもやするけど……
仕方ないのかな?
「いきましょう」
クロエの合図で出撃だ。
隠れ家から出て、混乱する街の中を駆ける。
あちらこちらから悲鳴が聞こえてきた。
やりすぎていないか少し心配だ。
「大丈夫です」
俺の懸念を察した様子でクロエが言う。
「派手な陽動が必要なため、あちらこちらに爆薬を仕掛けておきましたが、人のいないところなので怪我人は出ていないはずです」
「予想外っていうのはあると思うよ?」
「それでも、私達は前に進まないといけません」
いざとなれば犠牲も覚悟しているようだ。
そこまでの決意を固めているのなら、なにも言えない。
俺は、俺のやることをやろう。
ほどなくして領主の屋敷に辿り着いた。
当たり前だけど警備の兵がいる。
でも、街がこんな状態なのに数は少ない。
普通ならもっとたくさんの兵がいるはず。
「……陽動はうまくいっているみたいだね」
「……ええ、そうですね」
すぐに突撃するようなことはしないで、まずは物陰から様子を見る。
「門の前に四人、その奥に八人……屋敷の中はわからないけど、もっといるよね?」
「はい。領主はとても用心深いところもあって、常に護衛をつけています。このような事態でも、最低限の護衛は残しているでしょう」
「厄介だね」
陽動で数が減っているはずなのに、それでも、まだそれなりの護衛が残っている。
いちいち相手にするのは大変だ。
「どうしましょうか……?」
悩むクロエ。
一方で、
「ハル、ここで足を止めていたら本隊が戻ってくるかもしれないわ」
「ちゃちゃっとやっちゃいなさい」
アリスとレティシアは急かしてきた。
性格の差がよく現れている。
っていうか、なんでアリスまで……?
こういう時は慎重になると思っていたんだけど。
念の為、アリスに確認を取る。
「いいの?」
「いいわ」
即答だ。
「時間をかけられない、っていうのもあるし……なにより、ハルがちょっとおかしいっているところを見せつけて、クロエに諦めてもらわないと」
ひどい言われようだった。
まあ、否定はできないけど。
「よし。じゃあ、クロエ達は下がってて」
「え? ハルさん、なにを……」
「道を作ってくるね」
隠れるのをやめて、兵達の前に姿を見せた。
途端に剣を向けられる。
「なんだ、お前は!?」
「誰も通すなと言われている、帰れ!」
「いや……待てよ? こいつの顔、どこかで……」
「悪いけど、どいてもらうよ」
剣呑な雰囲気を見せる兵士達に手の平を向ける。
彼らは揃って、不思議にそうに首を傾げて……
その間に、俺は魔法を唱える。
「ファイア」




