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372話 求婚された。そして見られた

「……え?」


 今、なんて?


 そんなこちらの疑問と動揺を察したのか、それとも、あらかじめ予想していたのか。


「私と結婚してください!」


 クロエは、もう一度繰り返した。


 聞き間違い……じゃなくて。

 幻聴……でもなくて。


 確かに、クロエはそう言った。


 うん。

 意味がわからない。


「ど、どういうこと……?」

「そのままの意味です。私は、あなたと一生を添い遂げたいと思いました」

「でも、俺達、出会ったばかりなんだけど……」

「時間は関係ありません。必要なのは想いです!」


 そんなことを言われても、と思う。


 ものすごく気に入られたみたいだけど……なんで?

 俺、なにもしていないはずなのに。


「私ではダメですか……?」


 クロエが前に出て、俺の手を掴んできた。

 そのまま上目遣い。


 うん。

 あざとい。


 いや、本人にそのつもりはないんだろうけど……

 こんなに強くアピールされると、その気はなくてもドキドキしてしまう。

 男って悲しい。


「なんでもさせていただきます。尽くさせていただきます。ですから、どうか私を傍に置いていただけませんか?」

「まって、まって。いきなりだと思うんだけど、どうして?」

「……私を肯定して、味方でいると言っていただけたことが本当にうれしくて」


 感極まった様子でクロエが言う。

 その瞳には、うっすらと涙すら浮かんでいた。

 彼女の言葉を信じるのなら、うれし涙だろう。


「……そっか」


 わからないでもなかった。


 どうすることもできなくて、先がまったく見えなくて。

 世界で一人ぼっちになったような時……

 誰かが傍にいてくれると、ものすごく安心する。

 心の底から信頼してしまう。


 俺の場合、アリスがそうだった。


 レティシアと別れて、一人になって。

 解放された、とか思いつつ、でも寂しくて悔しくて。


 でも、アリスと出会うことができた。

 彼女は一緒にいてくれた。

 それが、どれだけ心の支えになったことか。


 うん。


 たぶん、クロエも似たような感情を抱いているんだろう。

 突発的だけど、でも、その想いは本気なんだろう。


 なら、俺も真正面から向き合わないと。

 しっかりと返事をしないと。


「どうか、私と結婚してください!」

「クロエ。それは……」


 ふと、妙な気配を感じた。

 振り返ると……


「「……」」


 燃えるようなオーラをまとい、ジト目になっているアリスとレティシアが!


「ど、どうして二人が……!?」


 なんだろう。

 悪いことはなにもしていないはずなのに、ものすごく後ろめたい気持ちだ。

 動揺して、慌てて、焦って……

 なんかもう、言葉がうまく出てこない。


「ハル……まさか、そういう小さな子が好きだったなんて」

「変態」

「いやいやいや、待って!? 俺は、そういうつもりじゃなくて……」

「確かに、私とハルさんは歳が離れているかもしれません。ですが、私がハルさんを想う気持ちは本物です!」

「あんた……」


 クロエの主張に、レティシアはほだされたような顔をして……


「それを証明するために、私は、この身を差し出す覚悟です!」

「「!?!?!?」」

「幼いところは隠すことはできませんが、しかし、ハルさんのためになんでもするつもりです。どのような要求も受け入れるつもりです」

「「……変態……」」

「まって!?」


 アリスとレティシアが、揃ってジト目を向けてきた。


 俺、なにもしていないよね!?

 クロエが暴走しているだけだよね!?


「ハルさん、どうか私を隣に……!」

「まさか、ハルにそんな趣味があったなんて……くううう、これ、どうしたらいいの?」

「……斬る、斬るわ」


 ……とりあえず。

 出撃一時間前なのに、場はとんでもない混沌に包まれましたとさ。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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