368話 ぶっ○す!
振り返ると、会議を一緒にした幹部達が。
ポケットに両手を入れて、やや前傾姿勢に。
サングラスをかけているのでよくわからないが、俺を睨んでいるみたいだ。
「さっきは、よくもふざけたことをしてくれたのう、おぉん?」
「え? どういうこと?」
「とぼけるなボケぇっ!」
よくわからないけど、ものすごく怒っているみたいだ。
これはもしかして……
「もしかして俺、クロエに……」
「おう」
「手を出したと思われている?」
「出しんたんかわれぇ!!!?」
「出してない、出してない」
慌てて手を横に振る。
「……出したの?」
「……出したわけ?」
アリスとレティシアからもジト目が。
「ごめん、冗談のつもりだったんだけど……」
「もう、ハルの冗談はわかりにくいのよ」
「もしも手を出していたら……ふふふ」
レティシア?
その笑み、怖いんだけど。
「でも……どうして怒っているの? 俺、なにもしてないけど」
「会議中、お嬢に失礼を働いただろうが!」
「失礼?」
「領主を殺すとか、あのふざけた発言のことだぁ!」
なるほど。
失礼と言えば失礼な発言だ。
ただ……
あの場でどうしても確認しておきたかった。
覚悟を確かめておきたかった。
だから、あれは必要なことだったと思っているけど……
クロエの部下としては見過ごせない発言だったんだろう。
「てめえ、わかってんのか!? 領主はお嬢の父親なんだぞ!? あんなんでも父親で……ちったぁ配慮を見せやがれ!」
「それについては悪いと思っているよ。ごめん」
「お、おう……?」
素直に謝られたことが意外だったのか、幹部達の勢いが衰える。
このまま、なあなあにしてしまうのが一番なんだけど……
でも、それはダメだ。
ここでこちらの態度をハッキリさせておかないと、いざという時、揉めるかもしれない。
「でも、間違ったことを言ったとは思っていないよ」
「あぁん!?」
「いざっていう時にためらいがあったら失敗するから。親殺しをしても改革を成し遂げたいのか。その覚悟を知っておきたかったんだ」
「……だから、あえて俺達がいる場所で話をしたと?」
「うん」
「……お嬢は聡明な方だが、まだ子供なんだぞ?」
「それもわかっているよ。でも、覚悟がないと成し遂げられないことをやろうとしている。一蓮托生のようなものだから、土壇場で失敗なんてされたら困る」
「だから、あえて試したと? あの場で?」
「そういうこと」
自分で言っておいてひどい話だと思う。
こちらの都合を押しつけた、わがままな理屈だ。
でも……
父親殺しをやろうとしているのだから、公の場でも怯むことなく、断言できるだけの固い意思が欲しかった。
それを確認しておきたかった。
でなければ、ただの子供の夢だ。
「よーし、よーくわかった」
「わかってくれたんだ」
「おう……てめえはぶっ殺さなきゃならねえってな!!!」
「あれ!?」
幹部達が憤り、それぞれ武器を抜いてしまう。
「うーん、説得失敗か」
「え、あれで説得していたの?」
「ないわー」
アリスとレティシアから驚かれてしまう。
あれ?
もしかして、煽っていたように見えた?
そんなつもりはまるでなかったんだけど……
うーん、対話って難しい。
「よーし、よーくわかった。てめえはここで潰しておかねえとな」
「待って。ストップ。俺に悪気はなくて……」
「素で言ってたのか!? ふざけんなよ!!!」
「あれ!?」
さらに煽る形になってしまった。
いや。
本当にこっちにそんな意思はないんだけど。
というか……
改革を成し遂げようとするレジスタンスなんだから、俺が言うくらいの覚悟はあって当然だよね?
その覚悟を見せてほしい、って言っただけなんだけど……
うーん。
この人達、クロエに関してはちょっと甘いのかもしれない。
それは本人のためにならないよな。
「ぶっ殺してやらぁ!」
ぶちキレた幹部達が短刀を取り出して、襲いかかってきた。




