37話 市街地戦
「ダブルスラッシュッ!」
ニ連撃の剣技が繰り出されて、街の人に襲いかかろうとしていたウルフが両断された。
アリスはウルフが絶命したのを確認してから、街の人に声をかける。
「大丈夫?」
「は、はい……ありがとうございます」
「怪我は……ないみたいね。歩ける?」
「な、なんとか……」
「なら、近くの頑丈な建物の中に……そうね、そこの教会がいいわ。そこに避難して」
「あなたは……?」
「あたしは、他に逃げ遅れている人がいないか探すわ。中に入るまで一緒にはついてあげられないけど、大丈夫よね?」
「は、はいっ」
何度か頭を下げた後、街の人は教会に向かって走る。
その背中を見送った後、アリスは再び街中を駆けた。
地震でも起きたかのように、あちらこちらで物が散乱している。
時折、魔物が姿を見せて、襲いかかる。
「これくらい……!」
アリスは華麗なステップで魔物の攻撃を避けると、カウンターを繰り出した。
しかし、一撃で仕留めることはできない。
二度三度と攻撃を繰り返すことで、ようやく沈黙させることに成功。
「ふぅ」
一度足を止めて、額の汗を手の甲で拭う。
「ハルみたいにはいかないわね……」
自分のレベルは22。
職業は、初級の剣士。
特殊なスキルは持っていない、普通の冒険者だ。
「……ちょっと、今後のことを考えた方がいいかもね」
ハルはあまり自覚していないが、とんでもない力を持っている。
桁外れの魔力を持っているだけではなくて、オリジナル魔法を即興で開発してしまうという、規格外の力も見せつけられた。
ひょっとしたら、まだ表に出ていないだけで、なにかしらの隠し玉があるかもしれない。
それと、頭も賢い。
本人はあまり意識していないようではあるが……
今回の事件を解決に導いたのは、ほぼほぼハルの功績だ。
一見すると奇抜な推理。
しかし、それは的を射ていて、限りなく正解に近いところにいる。
そんなハルに比べて……と、アリスは思う。
「あたし……あまり役に立ててないわよね」
ハルの力になると決めたはずなのに。
逆に、足を引っ張ってしまうようなことばかり。
これでは意味がない。
ハルのところにやって来た意味がない。
ハルが聞けば、そんなことはないと言うだろう。
アリスに何度も何度も助けられたと言うだろう。
しかし、アリスは本当の意味で、ハルと対等になりたいのだ。
心を支えるだけではなくて……
背中を預けて、命を託すことができるような、そんな真のパートナーになりたいのだ。
そのための力が不足している。
知識も足りていない。
ならば、どうするべきか?
諦めてしまうのか?
否。
そんなことはありえない。
アリスは、残りの人生、全部ハルのために使う意気込みでいる。
だから、
「絶対に強くなってみせる」
強い決意を胸に、アリスは燃える街を駆けた。
――――――――――
「邪魔っす!」
風を巻き込むようにしつつ、サナが拳を振るう。
その一撃は、見た目からは考えられないほど重く、強烈だ。
巨大な体を持つオーガが紙のように吹き飛ばされて、他の魔物を巻き込み、地面を転がる。
「グギャッ!」
リザードマンが武器を手に、サナに斬りかかった。
武器は行き倒れた冒険者の者を利用しているのだろう。
それなりに鋭く、なかなかの業物であると見られた。
しかし。
「なんすか、それ?」
がしっ、と剣を素手で受け止める。
サナは涼しい顔をしていた。
まるで痛みを感じていない様子で、ダメージは欠片も受けていない。
「ギャッ……!?」
リザードマンは慌てた。
どうして、人間なんかが素手で武器を受け止められる。
ありえない。
この人間は……
サナをじっと見て、そこでようやく気がついた。
ドラゴンの名残である角と尻尾が生えていることに。
己がなにを相手にしていたのか?
それを理解したリザードマンは戦意を喪失して、慌てて逃げ出そうとするが……遅い。
魔物などにかける情けはない。
サナはにっこりと笑い、
「さよならっす」
豪腕が振るわれて、リザードマンは文字通り星になった。
「……ふっふっふ」
サナがニヤリと笑う。
また1匹、魔物を倒した。
すでに30匹以上、倒している。
かなりの戦果ではないだろうか?
「これだけ活躍すれば、師匠も自分を認めてくれるはずっす!」
きっと、正式に弟子入りできるに違いない。
そして、たくさんたくさんかわいがってくれるに違いない。
「ふへ」
よくやったな、サナ。
お前のような弟子を持つことができて、俺は世界一の幸せ者だ。
これからも、俺と一緒にいてほしい。
ほら、頭をなでてやろう。
そんな妄想を頭の中で繰り広げたサナは、だらしのない笑みを浮かべた。
そのような感じで、サナは己の欲望に忠実に従い、魔物を倒し続けた。
動機はどうあれ……
欲望を源に動くことは、強烈なエネルギーを産む結果となり、大活躍をするのだった。
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