367話 ちょっとまてや
レジスタンスのアジトはとても広い。
砦を一つ、まるごと使用しているらしい。
たくさんの部屋があるだけではなくて、武器も豊富だ。
いざという時のためのバリケードなどもある。
メンバーは百人ほど。
領主に反逆することを考えると少ないけど……
でも、小さな女の子がこれだけの数を集めて、アジトを用意したというのだから驚きだ。
さすが領主の娘というべきか。
彼女は将の才能がある。
とはいえ……
クロエのような女の子が武装蜂起しなければいけない現状は、とても歓迎できるものじゃない。
俺達には俺達なりの目的があるのだけど、それを抜きにしても、彼女の力になりたいと思った。
「では、今後の方針を決めたいと思います」
会議室へ移動して、これからを話し合う。
メンバーは、クロエとレジスタンスの幹部が数人。
それと俺達だ。
幹部達は、突然やってきた俺達を胡乱な目で見ている。
素性不明なので、助っ人と言われてもすぐに納得できないのだろう。
一般構成員は歓迎してくれたけど……
幹部ともなると、そう簡単に信じるわけにはいかないのだろう。
「その前に、彼らのことを紹介します。ハル・トレイターさん。アリス・スプライトさん。レティシア・プラチナスさん。私達に力を貸してくれる、新しい仲間です」
「……お嬢、その方々は本当に信頼できるので? 領主のスパイという可能性は?」
「あの男はスパイなどという手は使わないでしょう。真正面から叩き潰そうとするはずです」
「それはそうですが……」
「すぐに信じることは難しいかもしれません。ですが、彼らはとても強い。味方になってくれれば、目的を果たすことができるはず」
「……わかりやした。お嬢がそこまで言うのなら」
「ありがとうございます」
クロエの熱意に負けた様子で、幹部が引き下がる。
ただ、こちらを睨んだままだ。
クロエを裏切るような真似をしたら承知しない、そう目が語っていた。
「……なによ、あいつ。やる気? 斬るわよ?」
「……斬らないで」
とても好戦的なレティシアだった。
「では改めて……今後についてですが、一気に攻勢に出るべきと私は考えます。領主を倒して、妄執から都市を解放しないといけません」
「ちょっと確認しておきたいんだけど」
挙手をしてから発言をする。
「領主を排除するって聞いているんだけど、それは、殺すっていうこと?」
「てめえ!?」
領主の娘であるクロエになんてことを聞く。
そんな感じで幹部達が怒るものの、当の本人は冷静だった。
「はい」
即答。
迷いもない。
「それは確定?」
「確定です」
「そっか……うん、了解」
そこまでの覚悟を決めているのなら、なにも言うことはない。
俺達の目的のため。
クロエの目的のため。
共闘して、一緒に戦うことにしよう。
「それでは、まずは……」
――――――――――
会議は一時間ほどで終了した。
クロエ達はすでに綿密な攻撃計画を立てていたらしく、話が停滞することはなかった。
俺達に説明することが目的で、後は、細部を詰めるだけだったみたいだ。
まず、メンバーを三つに分ける。
陽動班は二つ。
それぞれ時間差で事件を起こして、領主の兵を少しでも削る。
そうやって隙ができたところで、クロエ率いる精鋭が領主の館へ突入する。
シンプルな作戦だ。
でも時間やタイミングなどは細かく考えられていて、よくできていると思う。
うまくハマれば、一気に優位に立つことができるだろう。
「ふふん、私達は突入班ね!」
「レティシア、うれしそうね?」
「陽動なんてチマチマしたことはやってられないわ! 私にふさわしい舞台で、思い切り斬りまくりたいもの」
発言が切り裂き魔と変わらない。
うーん。
幼い頃のレティシアが懐かしい。
「天使のこと、誰も知らなかったのは残念ね」
会議中、天使について尋ねてみたけど、成果はなかった。
幹部もクロエも詳しくない様子で、なにも知らないという。
できれば、突入前にある程度の情報を集めておきたかったんだけど……
時間をかけると他都市への侵攻が始まるかもしれないから、仕方ないか。
「作戦は明日ね。私、それまで寝てるわ」
「あたしもゆっくりしようかしら?」
「なら俺も……」
「おうおうおう、ちょっと待てや兄ちゃん」
ふと、そんな声が聞こえてきた。




