366話 隠れ家へ
「では……まずは場所を変えませんか?」
これからよろしく、と握手を交わして……
それから、クロエがそんな提案を口にした。
「ここにいたら、ゲオルグの兵に見つかってしまうかもしれません。ハルさん達を今でも探していると思いますから」
「ここは隠れるには不向きなの?」
「しばらくは問題ないでしょうが、ずっとは不可能です。どこが空き家になっているが、ゲオルグの兵は全て把握していると思います。ハルさん達の姿がどこにもないとなると、今度は空き家を全て調査するでしょう」
そこまでするのか。
クロエと出会っておいてよかった。
この出会いがなければ、このままここに滞在して、敵に見つかっていたかもしれない。
「荷物などはありませんか?」
「大してないよ。すぐに移動できる」
「では、私が案内します」
「ところで、場所を変えるといっても、どこへ?」
クロエはニヤリと笑いつつ、少し誇らしげに言う。
「私達、レジスタンスのアジトです」
――――――――――
クロエの案内で、街の外れにある宿に案内された。
賑わっているわけではなくて、かといって寂れているわけでもない。
どこにでもあるような普通の宿だ。
「ここが……?」
「こちらです」
クロエは宿の二階へ。
そのまま一番端の客室に入る。
「普通の部屋……だね」
「普通の部屋……ね」
特になんてことはない二人部屋。
ここがレジスタンスのアジト?
「到着です」
「え? でも、普通の部屋にしか見えないけど……」
「今は偽装をしているので。こうして偽装を解除すると……」
クロエがパチンと指を鳴らした。
その音に反応するかのように、周囲の景色が変貌していく。
宿の部屋は溶け落ちていく。
代わりに、要塞の一室のような、巨大な空間が広がる。
「え? え? えええ???」
「な、なによこれ!?」
アリスとレティシアは、ひたすらに慌てていた。
うん。
気持ちはよくわかる。
ただ、俺はわりと落ち着いていた。
最近、似たような経験をしたからだ。
「これは……もしかして、転移魔法と幻惑魔法?」
「正解です。まさか、一目で看破してしまうなんて……驚きです」
「半分くらいは当てずっぽうなんだけどね」
ここは宿の二階にある客室じゃない。
鉄血都市のどこかにある、レジスタンスのアジトなのだろう。
転移魔法が使われたのだろう。
おそらく、扉を潜ると同時に発動するように設定されている。
いつも転移が実行されるわけじゃなくて、なにかしら条件があると思う。
クロエが一緒でないと、ここに来ることができないとか、そんな感じ。
で……
念のための仕掛けとして、扉を潜った先は幻惑魔法で普通の部屋に見せていた。
万が一、兵士が突入をしても、ここは普通の客室です、とごまかすことができるわけだ。
そんなことをアリスとレティシアに説明するのだけど、
「「ほへぇ……」」
二人は、よくわからない、という感じで目を丸くしていた。
えっと……
まあ、二人は魔法は専門外だから仕方ないか。
「お嬢、おかえりなさい!」
「「「おかえりなさい!!!」」」
レジスタンスのメンバーらしき人達が集まってきて、大きな声をあげてクロエを迎えた。
「ただいま戻りました」
「お嬢、怪我はありやせんか!?」
「喉は渇いていやせんか!? ジュースがありますぜ!」
「お嬢、荷物をどうぞ!」
みんな、クロエの部下なのだろう。
あれこれと世話をやこうとしているけど……
その光景は、裏社会のボスの娘と、それに付き従う構成員にしか見えなかった。
大丈夫なのかな、ここ……?
「お嬢、こちらは?」
「私達に力を貸してくれる助っ人です。失礼のないようにしてください」
「おぉっ! それは……!」
レジスタンスのメンバー達の顔がキラキラと輝いた。
そして、一斉に頭を下げる。
「「「力を貸していただき、ありがとうございやすっ!!!」」」
「えっと……」
「「「お嬢のため、この都市のため、思う存分にヤッちまってくだせえっ!!!」」」
「……」
この人達、とても暑苦しい。
「……ちょっと、ハル」
「……どうしたの、レティシア?」
「……こいつら大丈夫なの?」
レティシアに心配されるなんて、とてもダメな気がしてしまうのだった。




