363話 来訪者
「それじゃあ、今後のことだけど……」
鉄血都市に留まり、天使をとっかかりにして神様のことを調べる。
方針は決まった。
ただ、どのように行動するか、それは空白のままだ。
「天使を調べるとかいうけど、どうするの?」
「ハッキリとはわからないけど、相手は強い……空も飛べる。おとなしく捕まってくれる相手じゃないわね」
「おまけに、私達は指名手配されているようなもの。この街でろくに動くことができないわ。ハンデが多すぎるわね」
「いくらか考えはあるんだけど……」
途中で言葉を切る。
唇に指先を当てて、二人に沈黙を促した。
「……」
二人はすぐに状況を察してくれて、口を閉じる。
……近くに人がいる。
ただの通りすがりじゃない。
その足音は、こちらに向かってきている。
空き家だと思っていたけど、実は人が住んでいて、その住人が戻ってきた。
っていう展開なら、まだマシだ。
でも、近づいている人の足音はゆっくりと、静かに進んでいる。
まるで、こちらを警戒しているかのよう。
戦いに備えて。
口パクで二人にそう伝えた。
「……」
ここに近づいている人は、敵なのか?
それとも味方なのか?
あるいは……
緊張に動悸が早くなるのを感じつつ、じっと待つ。
「こんにちは」
この都市の異様性を考えると、いきなり攻撃されることも覚悟していた。
でも、そんなことはなくて……
武器や魔法が飛んでくることはなくて、挨拶が飛んできた。
しかも、妙にかわいらしい声だ。
女性であることは確定。
その上で、年齢がとても低いような……?
「あなた達は、先程、広場を騒がせていた人ですね?」
「……」
レティシアが剣の柄に手を伸ばすけど、ダメ、と首を横に振る。
「私は敵ではありません。どうか話を聞いていただけませんか?」
「ハル、まずは様子を見た方がいいわ」
「っていうか、敵でしょ。ぶった切る?」
「どうぞ」
「「ハルっ!?」」
あっさりと扉を開ける俺を見て、アリスとレティシアは大きな声をあげた。
こういう時は息ぴったりなんだよね。
「……」
扉の向こうにいたのは、やはりというか、小さな女の子だった。
歳は十くらいだろうか?
背は低く、体は小さい。
そのせいで年齢が低く見えるだけで、実際はもう少し上かもしれない。
髪はやや長め。
サイドテールで、リボンでまとめられた房がぴょこんと横に飛び出している。
女の子は目を丸くして驚いていた。
「こんにちは」
「……あ、はい。こんにちは」
「どうして驚いているの?」
「いえ、その……まさか、こんなにもあっさりと扉を開けてもらえるとは思ってなくて」
「うん、俺もビックリ」
普段ならもっと警戒すると思う。
でも、なぜか、この声の主は信じられると思ったのだ。
「君は俺達を騙そうとしていたの?」
「いえ! そのようなことは決して……」
「なら、オッケーだよね」
「……ふふ」
ややあって、女の子はくすりと笑う。
子供らしい、無邪気な笑顔だ。
「面白い方ですね」
「普通なんだけどなあ」
「「それはない」」
またもやアリスとレティシアが息をぴたりと合わせるのだった。
――――――――――
「改めて、話をする機会を与えていただき、感謝いたします」
空き家に入ると、女の子は丁寧に頭を下げた。
その所作。
そして、着ているものなどを見る限り、それなりの身分なのだろうと推察する。
「私の名前は、クロエ・フェルナルド……この鉄血都市を治める領主、ゲオルグ・フェルナルドの娘です」
やっぱり扉を開けない方がよかったかな?
ついつい、そんなことを思ってしまう俺だった。




