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362話 民主主義という名の問答無用

「二人共、ストップ」


 このまま放置したら大変なことになりそうなので、間に割って入る。


「今は、仲間同士で争っている場合じゃないよ」

「それは、まあ……」

「っていうか私、仲間になったつもりはないんだけど? ハルに無理矢理連れ回されているんだけど?」


 レティシアはジト目をしつつ、そんなことを言う。


 まあ……

 事実その通りなので、なにも言えない。


 目を離せないから手元に置いているだけで、仲間になったわけじゃないんだよね。

 そういう意味で、転移させられた後、真っ先にレティシアを見つけられたのは幸運だったと思う。


「まあ、それはそれとして。今は、目の前のことを考えよう」


 ごまかした、という感じでジト目がさらにきつくなる。

 でも、気づかないフリ気づかないフリ。


「街に留まるか、出るか。この二択だけど……多数決で決めようか」


 お願い、という感じで、アリスにアイコンタクトを送る。


 それを受けたアリスは、了解、と小さく頷いた。


「多数決なんて、面倒なことをするわね。実力で決めてもいいんじゃない?」


 レティシアはニヤリと笑いつつ、剣の柄に手をかける。


「私は、ハルとアリス、まとめて叩き伏せてもいたたたたたぁ!?」


 物騒なモードに突入したレティシアを魔法でおとなしくさせた。


「うー……頭がジンジンする」

「物騒なことを言うからよ、まったく」

「うっさいわね。私は、今までずっとこうしてきたの」

「なら、矯正しないと」

「ふんっ」


 以前なら確実にキレていたレティシアだけど、今は、おとなしく引き下がってくれた。

 悪魔の魂の侵食をそれなりに押さえることができているのだろう。


 本人は、完全に制御したと思っているみたいだけど……

 でも、まだまだ危ういところはある。

 気をつけていかないと。


「じゃあ、多数決で決めるよ」

「あたしは問題ないわ。レティシアは?」

「……好きにすれば?」


 よし、勝った。


「始めるよ。今すぐに鉄血都市を出る、に賛成の人?」


 レティシアの手が挙がる。


「なら、ここに留まる、に賛成の人?」


 俺とアリスの手が挙がる。


「はい、決定」

「ちょっと待ちなさいよ!?」

「なに?」

「なんで私が負けるわけ!? 納得できないんだけど!!!」

「いや、多数決なんだから、どっちかが絶対に負けるんだけど……」

「私が負けるわけないわ!」

「でも、現実はこうなわけで」

「うぐ」

「レティシアも多数決に賛成したよね? なら、この結果を受け止めないと。子供じゃないんだから、やっぱりやだ、って駄々をこねるのはどうかと思うよ」

「むぐぐぐ」


 挑発めいた言葉をぶつけてやる。

 暴発する恐れはあったけど……


 でも、うまい方向に感情が流れたらしく、レティシアはなにも言えない様子だった。


「……ちょっとかわいそうね」


 そっと、アリスが俺にだけ聞こえる声で耳打ちした。


「……多数決って言っても、こうして示し合わせていたら意味ないもの」

「……それに、実際は数の暴力みたいなものだからね。とはいえ、こうでもしないと話が進まないから、仕方ないよ」

「……それもそうね」


 わりとあっさりと納得してしまう俺達。

 ちょっとひどいかなー、と思わないでもないけど……

 レティシア相手に意見を通そうとしたら、これくらいはやらないとダメなんだよね。


「まったく……」


 ぶつぶつと小声で文句を紡いでいるレティシア。

 後で暴発しないかな? と不安になってしまうのだけど……


 でも、どうしてもここで天使の調査をしておきたい。

 だから、リスクがあるとしても前に進みたい。


「ねえ、ハル。賛成した後で言うのはなんだけど……天使の調査を急ぐ必要はあるの?」

「それは……」

「うん、わかっているわ。今が絶好のチャンスで、みんなを待っていたら機会を逃してしまうかもしれない。それはわかるんだけど、大きなリスクを承知で進むなんて、あまりハルらしくないかな、って」

「……ちょっと、アリス。あんたがハルを語るんじゃないわよ」

「あたしはあたしの感想を口にしただけよ? どうして、それで文句を言われないといけないのかしら?」

「あんた……」

「ふふ」


 なぜか、女性の戦いが勃発していた……なんで?


「えっと」


 話を逸らす意味も含めて、俺の真意を話す。


「さっき話したけど、俺は魔王の魂を継いだ。その使命を聞かされた。でも、そのまま従うつもりはないんだ」

「え? どういうこと?」

「魔王の使命は、ある意味で傲慢な神様を討ち滅ぼすこと。その話は理解した。でも、完全に納得はしていないんだ」


 魔王の話は筋が通っていた。

 嘘を吐いている様子もなかった。


 でも、一方の話しか聞いていない。


 もしかしたら、魔王の勘違いかもしれない。

 神様は傲慢なだけではなくて、なにか考えがあるのかもしれない。


「だから、神様側の主張なんかも調べておきたいんだ。それで、最終的にどうするか決めていきたい」


 与えられた情報を鵜呑みにするだけじゃダメ。

 自分の目と耳で、この世界を知らなくてはいけないんだ。


「なるほどね……だから、天使をとっかかりにして神を調べよう、ってことか」

「そういうことなら、あたしは賛成。知ることは大事だからね」

「ありがとう、アリス。レティシアは?」

「……ま、今は協力してあげる」


 ツンデレっぽいことを言いつつ、レティシアも賛成してくれるのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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