361話 独裁
「この都市って、かなり独特じゃない?」
起きたばかりなのにも関わらず、アリスは思考をフル回転させている。
「大した証拠もなしに、都市外の人だからっていう理由だけで、あたしやレティシアを処刑しようとした」
「普通、考えられないことだよね」
「あいつら……後で、滅多斬りにしてやるわ……」
そこ、私怨を燃やさないで?
レティシアが言うと、冗談に聞こえないから。
「状況を見ると、独裁体制を敷いているみたいだけど……」
「不思議なことに、鉄血都市の人達は、この独裁を受け入れているみたいなんだよね」
それが一番の違和感だ。
状況を考えると、鉄血都市が独裁体勢を敷いていることは間違いない。
普通、そんなものは反発を招く。
洗脳教育や制裁などをフル稼働させることで、ある程度は軟化させられるものの……
でも、大抵は失敗する。
民の間で不満が溜まり……
やがて、武装蜂起という形で大爆発が起きる。
それが一般的なパターンだ。
でも、鉄血都市の民は独裁を受け入れているようだった。
現状こそが正しいと、そう信じて疑っていない様子だ。
「すごくうまい感じで独裁を敷いているみたいだけど……うーん、いったい、どうやったんだろう?」
そこが気になる。
一部の民だけじゃなくて、全ての民が領主を崇拝しているかのようだった。
普通、どこかしらで不満がこぼれるものなんだけど……
「そうなると……鍵は天使、っていうことになるのかな?」
「天使?」
「えっと……」
天使を知らないアリスのために、説明をした。
ダンジョンの最下層で、それらしき姿を見かけたこと。
それと、この鉄血都市でも同じ姿を見かけたこと。
「……なるほど。天使、ね」
「天使が関わっているのなら、もう少し調べておきたいんだよね」
「なんでよ? とっとと逃げるのが正解でしょ、この場合」
「それは……あ」
そういえば、突然転移させられたせいで、魔王のことや使命のことを話していなかった。
「そういえば……ハル。結局、魔王の魂はどうなったの?」
アリスがそんなことを尋ねてくる。
よし、ナイスタイミング。
忘れていた、という素振りは見せないようにして……
この話に乗っかることにしよう。
「実は……」
試練の内容を二人に話した。
すると、二人はみるみるうちに難しい顔になり……
次いで、ジト目をこちらに。
「「ハル」」
「な、なに……?」
二人の声が重なる。
妙な迫力を覚えてしまい、ついつい背筋がピーンと伸びた。
「そういう大事なことは、すぐに言わないとダメでしょ!?」
「私、まったく聞いてないんですけど! っていうか……
「「忘れてたのでは?」」
どうして、こういう時だけ息ぴったりなんだろう?
「そんなこと……ないよ?」
「「怪しい」」
「えっと……」
ダメだ。
この二人がタッグを組んだら、どうやっても勝てる気がしない。
ごまかして逃げることも不可能だ。
「ごめんなさい」
「「よろしい」」
素直に謝ると、意外というか、簡単に許してくれた。
そこまで怒ってなくて、釘を刺す意味合いが強かったのかもしれない。
「話を戻すけど……」
アリスは考える仕草をしつつ、言葉と考えを紡いでいく。
「ハルが魔王から託された使命……壊れた神様。そういう前提があるとしたら、ある程度のリスクを犯してでも情報を集めておきたいところね」
「え? なんでそうなるわけ? こんなところ、さっさと出ていった方がいいでしょ」
アリスとレティシアの意見が対立した。
ここは、息ぴったりじゃないんだ……
「……レティシアは、ハルの話を聞いていなかったの?」
「聞いてたわよ」
「なら、天使の情報を集めた方がいいってこと、わかるでしょ」
「時と場合によるでしょ? たぶん、鉄血都市にいるのは私達だけ。能天気ドラゴンとか物理特化娘はいないわ」
サナとシルファのことかな?
「戦力は半減……っていうか、それ以下。そんな状況で、やばい連中とやりあうつもり? ありえないでしょ」
「別に戦うつもりはないわ。せっかくのチャンスなんだから、少しでも情報を集めておかないと」
「私、自分から危険地帯に足をつっこむ気はないんだけど」
「ノーリスクでなにもかも得られるわけないでしょ」
「むっ」
「むっ」
睨み合い、バチバチと火花を散らす二人だった。




