358話 もう一人の不心得者
魔王と対話した時……
彼は、神を討つことが目的だと言った。
壊れた神が世界を管理していることが許せない……と。
そんな話を聞いた後だから、神という言葉に敏感になって、鉄血都市のことを気にしてしまっているのか?
それとも、本当になにか神と関連しているのか?
気になるところだ。
この都市は色々とおかしい。
長く留まることは危険なのだけど……
でも、できるなら、もう少し調査をしておきたい。
もしかしたら、そうすることで俺の目的である神の情報が手に入ることが……
「ハル!!!」
「うわっ!?」
いきなり耳元で大声を出されて、椅子から落ちてしまう。
「な、なにするのさ!?」
「私は何度も呼んでたわよ。それなのに、ハルがぜんぜん気づかないの。私は悪くないわ」
つーんとした態度で、レティシアはこちらを睨みつけてきた。
「そ、そうだったんだ……ごめん。ちょっと考え事をしてた」
「あ、そ」
「それより、どうかしたの?」
「なんか外が騒がしいわよ」
「外?」
宿の窓を開けて、そっと通りを覗いてみた。
「おい、聞いたか? 侵入者が捕まったらしいぞ」
「もう捕まえるなんて、さすが領主様だな!」
侵入者が捕まった?
「えっと……」
「私達のことじゃなさそうね」
俺達のことがバレたなら、ここに兵士が押しかけてくるはず。
あと、捕まえた、と過去形にはならない。
と、いうことは……」
「俺達の他に侵入者が?」
「みたいね。どこの誰か知らないけど、ちょうどいいわ。この騒ぎに乗じて、さっさと逃げましょう」
「……」
「ハル?」
「いや……待って」
鉄血都市の様子を見る限り、侵入者なんて滅多に現れない。
立て続けに現れるなんて偶然、そうそうないだろう。
だとしたら……
俺達と同じように、この近くに転移されて、それで侵入者扱いされた?
うん。
そう考えるのが自然だ。
「様子を見に行こう」
「は? なんで自分から火の中に突っ込むようなことをするわけ?」
「もしかしたら、仲間の誰かかもしれない。というか、その可能性が高いと思う。だったら、放っておけないよ」
「見知らぬ誰かかもしれないでしょ?」
「そうだけど、仲間かもしれない、っていう可能性が少しでもあるなら、やっぱり放っておけないよ。それに、見知らぬ人だったとしても、ひどいことをされそうなら助けたいし……」
「なによ、それ」
レティシアは呆れたような顔になって、
「……でも、そんなハルだから」
「なに?」
「なんでもないわ!」
どうしたんだろう?
「とにかく、様子を見に行こう」
――――――――――
意外というか、レティシアは素直についてきてくれた。
駄々をこねるようなら、魔法を使おうと思っていたんだけど……
なんだかんだで、レティシアも仲間を心配しているのかな?
それはともかく。
俺達は、少し前、レティシアが捕まっていた広場へ移動した。
レティシアの時と同じように、ここに、侵入者が磔にされているらしい。
「人が多いな……」
レティシアの時よりたくさんの人が集まっている。
人が塀のようになっていて、広場の中央を見ることができない。
「……これ、うっとうしいわね。吹き飛ばしていい?」
「ダメ」
レティシアって、今も昔も短気なんだよなあ……
「落ち着いてね」
「むう」
気分は調教師。
レティシアをなだめつつ、人混みをすり抜けて、なんとか前へ。
そして……
「アリス……!?」




