表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/547

36話 常識がないからこそなんでもアリ

「っ……!?」


 今……一瞬、目眩のような感じがした。

 それと、耳鳴りのようなものも。


 いったい、なにが……?

 いや。

 ジンはなにをした!?


「ハルさんっ、大変です!」


 外で待機しているはずのアンジュとナインが姿を見せた。

 事前の打ち合わせを無視するほどの、大きな問題が起きたのだろう。


「急に、街中に魔物が!」

「えっ」

「すでに被害が出ています。すぐに討伐をしないと……!」


 街中に魔物が忍び込むなんて、通常はありえない。

 ましてや、ここは強固な警備を誇る城塞都市だ。

 あらかじめ忍ばせておく以外に、魔物が侵入する方法なんて……


 まさか、こうなることをあらかじめ想定していた?


「これはお前の仕業か?」

「さてね……兄ちゃんはどう思う?」

「今すぐに止めろ。魔物を暴れさせたのなら、止める方法もあるだろう」

「ないんだな、これが。俺はこうして……」


 こちらの動揺を見抜いたのか、ジンは体を捻り、俺の拘束を逃れた。


「騒ぎに乗じて逃げるためだけに用意したものだ。止める方法なんてねえさ」

「くっ……!」

「じゃあな。兄ちゃんのこと、嫌いじゃなかったぜ」


 ジンは窓を破り、強引に外に逃げた。

 その背中を追いかけたくなるものの、しかし、今はそんなことをしている場合じゃない。


「アンジュとナインは、そこにいる男の拘束を頼む。そいつが主犯格だ!」

「は、はいっ」

「アリスとサナは、俺と一緒に。入り込んだ魔物を掃討しないと!」

「わかったわ!」

「わ、わかったっすー」


 アリスは力強く頷いた。


 サナは、まだ視界が回復していないのか、ちょっとフラフラしていた。

 少し心配だけど……まあ、竜だから平気だろう。

 人一倍頑丈で、力強いはずだ。


 主犯格らしき男をアンジュとナインに任せて、俺たちは外に出る。


「これは……」


 今は夜だ。

 照明の魔道具がところどころに設置されているものの、基本的に街は暗闇に包まれている。

 包まれているはずなのに……


 今は明るい。

 街が燃えて……

 炎で街が照らされていた。


「くっ……こんなこと!」


 自身が逃げるためだけに、これだけの事件を引き起こすなんて……

 ジンのヤツ、無事に逃げられると思うな。


 でも……


 今は、この事態を収束する方が先だ。

 怒りを向ける先を間違えたらいけない。

 感情の矛先を間違えれば、俺もまた、レティシアと同じ過ちを犯すことになるのだから。


「ギャギャッ!」


 建物の影から魔物が姿を見せた。

 ゴブリンだ。

 低レベルの魔物なので、普段ならば大したことはないのだけど……


 今は、街の人が襲われるかもしれないというリスクを抱えている。

 早急に仕留めないと。


「ファ……」

「ストップぅ!!!」


 ものすごい勢いでアリスに止められた。


「ハルが街中で魔法なんて使ったら、とんでもない被害が出るじゃない!?」

「え? いやでも、俺も手加減くらいは……」

「師匠の場合、手加減しても、普通の人のエクスプロージョンくらいの威力がありそうっすよねー」

「うんうん」


 アリスがものすごい勢いで同意していた。


 そんなことはない……と思いたいのだけど、断言はできない。

 今までは、足りない力を精一杯補おうと、常に全力だった。

 手加減なんてしたことがない。


 うん。

 よくよく考えてみれば、危ないかもしれない。


 とはいえ、魔法を使わないで戦うことは難しく……


「そうか。なら、戦いやすいようにアレンジすればいいのか」

「え?」


 効果範囲は最小に。

 しかし、威力は最大に。

 それでいて、持続時間も最大に。


 頭の中でイメージを固める。

 絵を描くようにイメージを広げて、塗り固めて、一つの形にする。


 思い描く形は……剣だ。


「フレアソード!」


 右手に炎が生まれる。

 それは細く鋭く収束していき、やがて、剣の形となる。


 俺をソレを使い、迫りくるゴブリンを両断した。

 切れ味は抜群。

 ほぼほぼ抵抗なく、ゴブリンの体を切断……というか、焼き切ることに成功。


 それを見て、残りのゴブリンが怯む。

 都合がいい。

 怯えているゴブリンたちを駆逐することは簡単で、全て、炎の剣で斬り伏せた。


「ふう……成功かな?」

「ハル……あなた、なにをしたの……? その炎の剣って、魔法よね……? そんな魔法があるなんて、聞いたことないんだけど」

「ああ、これ? これは、オリジナルの魔法だよ。ファイアの手加減とかにちょっと不安があったから、作ってみた」

「「作ってみた!?」」


 なぜかアリスとサナが驚きの声をあげる。


「し、師匠は、その……前々から、その魔法の開発に取り組んでいたっすか?」

「いや。たった今、思いついたものだけど」

「瞬間で開発した!?」

「なんで驚いているんだ? これくらい、誰でもできるだろう?」

「「できないからっ!」」


 声をピタリと揃えて、否定されてしまう。


「……できないのか?」

「できるわけないじゃない! ハルが使うような魔法って、世界の歴史に記されるような偉人が何年も何年もかけて開発するようなものなのよ!? 瞬間的に……しかも、中級はありそうな魔法を開発できるわけないでしょ!?」

「師匠、魔力だけじゃなくて、制御もとんでもないっすね……え? 師匠、ホントに人間っすか? やっぱ、魔王とかじゃないんっすか?」

「一応、人間のつもりだけど……」


 そうか……そうなのか。

 これは、普通はできないことなのか。


 今まで、誰も指摘してくれたことがないから、そういう常識を理解できなかった。

 常識というものが、全部、レティシアのところで遮られていたんだよな……


 今にして思うと、レティシアは、なぜそんなことをしていたのだろう?

 俺を世間知らずにしたかった?

 いじめにしては、なんていうか、中途半端な気がする。


 それよりも……

 俺に知識を与えたくなくて、強くなることを避けようとしていた?


 そう考えると、しっくりくるような気がした。

 ただ、なぜ俺を強くしたくないのか?

 その動機は不明ではあるが。


「自分、今度から師匠のことを、魔王師匠って呼んだ方がいいっすか?」

「なんだよ、そのわけのわからない呼び方は」

「いやー、魔王にふさわしいかなー、なんて」

「うれしくないよ、そんな称号」


 というか、そんな話をしている場合じゃない。


「これなら、俺も戦うことができる。各自、散らばって戦うことにしよう。その方が効率がいい」

「そうね。あたしは、北の方を担当するわ」

「なら、俺はこの近辺を」

「じゃあ自分は、南側っすね」


 現状、北と南の火の手が強いから、そこを中心に動いた方がいい。

 東と西は他の冒険者に任せることにしよう。


「二人共、気をつけて。それと……がんばろう!」

「ええ」

「はいっす!」


 二人は力強く頷いた。

 そして、俺たち三人は、それぞれ別方向に駆け出した。


『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] TVアニメのサンライズ勇者シリ-ズでよく出たアレですねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ