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357話 寵愛

 見上げるほどに大きな教会だ。

 通常の教会の十倍くらいのサイズがありそう。


 壁は白。

 屋根は青。

 そして、扉は黒という、よくわからない配色になっていた。


 よく見ると、教会のてっぺんに大きな鐘が設置されている。

 さきほどの音はこれだろう。


「「「……」」」


 街の人達は教会の前で足を止めて、膝をついて頭を下げる。

 祈りを捧げるようなポーズだ。


 それに習い、俺達も……


「ちょっと、レティシア」


 彼女は仁王立ちしていた。


「なによ?」

「なによ、じゃないから。早く街の人の真似をして」

「イヤよ。なんで私がそんなことをしないといけないの? ってか、ハルだってあだだだ!?」


 魔法を使い、頭を締め付けてやる。


「早く」

「……ふん」


 ふてくされつつ、レティシアも祈りを捧げるポーズを取る。

 それを確認したところで、俺も膝をついて頭を下げた。


 さて……成り行きに身を任せているけど、これからどうなるのか?


「よくぞ集まってくれた、我が街の愛する民達よ!」


 教会のテラスに姿を表したのは、一人の男だ。


 歳は、60前後だろうか?

 白髪混じりの髪。

 しわが刻まれた顔。


 体は細身で、年齢を考えても痩せていると言えるだろう。

 ただ、不健康そうな感じはしない。


 逆に、その身から強いオーラがあふれている。

 覇者の風格だ。


「皆も知っているだろうが、少し前、侵入者が現れた。私はすぐに、その不心得者を捕らえ、処刑しようとしたが……何者かの妨害で失敗した。すまない。私の不手際を謝罪しよう」


 男が頭を下げると、民達が動揺する。

 そのようなことはありません、気になさらないでください……などなど、擁護の声が飛び交う。


「温かい言葉、感謝する。ならば私は、皆の期待に応えよう。必ずや侵入者を捕らえてみせる、と! そして、この街の平和を守ってみせる、と!」


 男は天に向かって拳を突き上げる。


「心配する必要はない! この街は……鉄血都市は、神の祝福を受けている! 皆は、これまで通り神に祈りを捧げ、神の言葉を聞き、敬遠な信徒であってほしい。そして私は、そのための手伝いをしよう。神の御心のままに!!!」

「「「おおおおおぉぉぉーーーーー!!!」」」


 民達が叫ぶ。

 それこそ、熱狂的という言葉がふさわしい様子で、大きく声を張り上げていた。


 この街は……いったい、なんなんだ?




――――――――――




 その後、ほどなくして妙な集会が解散されて……

 街はいつもの日常を取り戻した。


 俺達は補給を再開。

 無事に水や食料を手に入れることができた。


 ただ、そのまま街を脱出するわけじゃなくて、一度、宿に移動した。

 部屋を取り、レティシアと二人きりになったところで気を抜いて、吐息をこぼす。


「ふぅ……なんか、街中にいるとピリピリした感じがして、落ち着かないなあ」

「ちょっと、ハル。なんで、すぐに街を出ないのよ? こんなところ、さっさとおさらばしたいんだけど」

「それは俺も同じ。でも、今は危ないと思う」


 教会で演説していた男は、たぶん、鉄血都市の領主だろう。

 その領主が、あそこまで大々的に侵入者を捕らえると言ったのだ。


 あちらこちらに見張りを立てて、罠を仕掛けているに違いない。

 俺達が侵入に使った下水も、今は封鎖されている可能性もある。


「だから、まずはその辺りを確かめないと。下手したら罠にかけられたり、兵士達に取り囲まれたりするよ」

「ぶっとばせばいいんじゃない?」

「あのね……」

「冗談よ。でも、めんどくさいことになったわね……それにこの街、おかしな雰囲気なんですけど。神の祝福を受けているとか敬遠な信者とか、なーんか怪しいんだけど」

「それは……うん」


 神様を信じる人はたくさんいる。

 熱心に教会に通う人もいる。


 でも、街の人全員が敬遠な信者というのは、なかなか考えづらい。

 考えづらいのだけど……

 実際には、街の人全てが教会に集まっていた。


 それと、領主の言葉……

 この鉄血都市には、なにか隠されているのだろうか?

次回更新は10日(金)になります。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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