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355話 鉄血都市

 魔法を使い、周囲の目をくらます。

 それからレティシアの拘束を解いて、無事に助けることができたのだけど……


「遅い!」


 開口一番、レティシアはそう言った。


 仁王立ちをして。

 こちらを睨みつけて。

 もっと早く助けなさいよ、とばかりに怒る。


「……助けなくてもよかったかな」

「なんですって!?」

「聞こえたんだ」

「聞こえるように言ったでしょ!」

「はぁ……」


 魔人になったせいで、キツイ性格になってしまった。

 ……そんなことを考えていたけど、案外、違うのかも。


 よくよく考えてみれば、レティシアは昔から活発で男勝りで……

 成長するにつれて、より活発になっただけで、魔人は関係ないのかも。


「なによ?」

「ううん、なんでも」


 まあ、それでも大事な幼馴染であることに間違いはない。


「よかった、助けることができて。レティシアになにかあったら、すごくイヤだから」

「んぁ!?」


 にっこりと笑うと、レティシアは奇声をあげた。

 それから、なぜか顔を赤くする。


「な、なにいきなり変なこと言ってるのよ……」

「変なこと?」

「私のことを、その……心配するようなことを……」

「そりゃ心配するよ。大事な幼なじみだもん」

「んぁ!?」


 再び奇声。

 いったい、どうしたんだろう?


「……あんた、狙ってやってる?」

「なんのこと?」

「無自覚……これだから天然は」

「???」


 なんだかひどいこと言われているような気がした。


 まあ……

 元気そうだから良しとするか。


「それよりも、どうして捕まっていたの? 食い逃げでもした?」

「してないわよ! あんた、私のことどういう目で見ているの!?」


 レティシアなら、ワンチャン、やらかしそうだなぁ……って。

 そんなことを思うものの、火に油を注ぐだけというのはわかっているので、黙っておいた。


「……私も訳がわからないのよ」


 レティシアは、ため息交じりに説明をする。


 俺と同じく、レティシアも転移に巻き込まれたらしい。

 気がつけば鉄血都市のすぐ近く。

 ひとまず街で情報収集をしようとしたのだけど……


 街に近づいた途端、たくさんの兵士がやってきて、そのまま捕まってしまったとか。


「いきなり斬りかかったりした?」

「してないわよ! だから、あんたは私をどういう目で見ているの!?」


 斬撃姫もとい、暴れん坊姫。

 そんなことを思うけれど、これも黙っておく。


「で……そのまま捕まっちゃったのよ」

「それで、いきなり火あぶり?」

「そうよ」

「相手はなんて?」

「街を破壊しようとする、他都市からのスパイを捕まえた。決して許される存在ではない。即刻、処刑を行い……っていう流れだったわ」

「それが本当なら、とんでもない話だね……」


 レティシアのことをろくに調べることなく、スパイと決めつけて、すぐに処刑を実行する。


 普通なら、間に調査や裁判というものが挟まるのだけど……

 それがない。

 欠片もない。


 冤罪だったら、どうするつもりなんだろう?

 絶対的な自信があるのか……

 それとも、冤罪だったとしても関係ない?


 どちらにしても、相当危ないところだ。

 鉄血都市がどういう体勢なのか、よくわからないけど……

 あまり長居はしたくない。


 したくないんだけど……


「ハル、さっさとこのふざけた街から離れるわよ」

「……そういうわけにもいかないんだよね」

「は? なんでよ?」

「レティシアは、水と食料はある?」

「……あ」

「ちなみに、俺はなにも持ってないよ」

「……私も」


 周囲は草木のない荒野。

 念入りに調査をすれば、オアシスを見つけたり、獣を狩ることができるかもしれない。


 でも、それは博打に他ならない。

 賭けの対象は自分の命。

 そんな無茶をすることはできない。


 つまり……


 この物騒極まりない鉄血都市で補給をしなければいけない、ということ。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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