353話 仲間を探して
人形の正体はわからない。
ただ、ある程度の検討はついた。
神の手勢。
魔王は言っていた。
神を討つことが目的だ、って。
敵対状態にあったのなら、魔王の力を継いだ俺を放っておくわけがない。
神は手勢を差し向けて、俺達を見知らぬ土地へ強制転移させた……とか?
「うーん……ちょっと強引な推理かな?」
あの人形が敵ということは間違いない。
ただ、強制転移という中途半端な攻撃をしかけてきたのは、どうしてだろう?
俺達がいた場所はダンジョンの最深部。
大規模爆発を引き起こすなりして、全体を崩落させれば、まず助からない。
巻き込まれることを恐れた?
でもあの人形は、そういう感情はないように見えた。
恐怖とか迷いとか、そういうものは持っていないように思えた。
「……あー、ダメだ! 考えるにしても、情報が足りなさすぎる」
よし。
人形について考えるのはやめよう。
まずは、ここはどこなのか?
みんなは近くにいないのか?
そちらを優先して行動していかないと。
一人、荒野を歩く。
現在地はまったくの不明。
岩と乾いた大地が広がるだけで、場所を特定できるようなものはなにもない。
なので、高所。
あるいは特徴的な地形を探すことにした。
高いところから周囲を見渡せば、なにかわかるかもしれないし……
特定の場所にしか生息しない動植物を発見したら、ここがどこなのかわかるかもしれない。
そう思って、ひとまず歩いてみたのだけど……
「俺、運が良いのかも」
一時間ほど歩いたところで、街が見えてきた。
まだ遠いから断定はできないけど、かなり大きな街のようだ。
小走りで街へ急ぐ。
そして……
「ふぅ、到着した……けど」
街は、城塞都市や学術都市と同じくらい広い。
近づけば近づくほど、その大きさを実感するようになって、全景がわからなくなる。
隕石が落ちたかのように大地が大きく、深く、広くえぐれ……
その中に建物がぎっしりと敷き詰められている。
その建物は、ほとんどが鉄で作られていて、太陽の光を受けて不気味に輝いている。
それらの中央にそびえ立つ鉄の城。
他の都市にあるような洗練されたデザインではなくて、無骨な作りになっていた。
この外観、間違いない。
「鉄血都市……か」
大陸の果てにあると言われている、独自の進化を遂げた街だ。
独裁に近い体勢が敷かれていると聞くけど……
詳しいことは知らない。
なにせ、鉄血都市は他の街との交流を持たない。
食料も物資も自都市だけで補い……
頑ななまでに、他都市との交流を拒む。
そのせいで、まったく情報が入ってこないんだよな。
一部の商人を除いて、個人の出入りも禁止されている……らしい。
街へ入ろうとしたら剣を突きつけられて。
最悪、そのまま捕縛されてしまうとか。
「うーん」
あまり関わりを持たないほうがよさそうなんだけど……
でも、いきなり転移させられたものだから、水も食料もない。
他に街が見つかるとは限らないし、ここで補給をしておいた方がいいか。
「よし」
ちょっと無茶をすることになるけど、こっそり潜入しよう。
門や塀で守られているわけじゃないから、侵入経路の一つや二つ、見つかるだろう。
物陰に隠れつつ、ギリギリのところまで接近。
様子を見る。
「んー……街へ降りるためには、東西南北にある階段を使う感じかな? でも、当然、見張りがいるよね。そうなると、崖を降りるしかないのかな」
崖は、ほぼほぼ直角。
高さは50メートルくらいだろうか?
普通にくだろうとすれば確実に落ちて、アウト。
慎重に行こうとしても、見つかってしまう可能性が高い。
「浮遊魔法とか使えたら便利なんだけど……」
俺、魔王の力を継いだのはいいんだけど、魔法の種類は増えていないんだよな……
攻撃魔法を五種類。
防御魔法を一種類。
回復魔法を一種類。
それだけ。
崖をこっそりと下る魔法なんてない。
「他所で騒ぎを起こして、その間に階段を下るのが一番現実的かな……うん?」
ふと、聞き覚えのあるような声が聞こえた……ような気がした。
不思議に思い、そちらに視線を向けると……
「ちょっと、離しなさいよっ! こら、聞いているの!? ぶっ殺すわよっ!!!?」
レティシアが見えた。




