352話 孤独
ふと、目が覚めた。
暗闇に沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。
目を開けて……
「う……」
眩しくて、反射的に目を閉じてしまう。
って……
眩しい?
どういうことだろう?
俺は、図書館ダンジョンの最下層にいたはずなのに。
不思議に思いつつ、今度はそっと目を開ける。
光に慣らすように、ゆっくりと視界を確保して……
「……なんだ、ここ?」
目の前の光景が信じられず、パチパチとまばたきを繰り返してしまう。
乾いた荒野が広がっていた。
草木は一本もなくて、砂と岩だけが転がっている。
「え? え? ……どういうこと?」
意味がわからない。
俺、なんでこんなところに?
もしかして……これは夢?
「そっか、それなら納得だ。うん。夢か」
あはは、と意味もなく笑い。
それから、自分の頬をつねる。
「……痛い」
夢じゃなかった。
いや、まあ。
夢じゃないことくらい、わかっていたんだけどね。
でも、仕方ないだろう?
ダンジョンの最下層にいたはずなのに、気がつけば、いきなり荒野に放り出されているなんて。
そんな現実、受け止めるのには時間がかかる。
「……ふう、少し落ち着いてきたぞ」
何度か深呼吸を繰り返して、多少の冷静さを取り戻すことができた。
その上で、改めて現状を分析する。
思い出せ。
こうなる前になにが起きた?
「そう、あれは確か……」
試練に挑んで……
魔王に後を託されて……
みんなのところへ戻って……
それから、妙な人形が現れた。
「あれは敵……なのかな?」
得体の知れない不気味な人形だった。
無機物に見えて、でも、意思があるような……
でも、まともに意思疎通ができないような……
人とはまったく別の思考回路を持っているように見えた。
「まあ、ただの感想というか、直感なんだけどね」
そんな独り言を口にする。
傍から見ると滑稽かもしれないけど、でも、そうしないとやっていられない。
今、俺は一人だ。
誰もいない。
アリスも、アンジュも、ナインも、サナも、シルファも、クラウディアも……レティシアもいない。
今まで、いつも誰かしらと一緒にいて、一人になることはなかった。
孤独になるのはこれが初めて。
だからなのか、ひどく心細い。
ともすれば震えてしまいそうになる。
なんて情けない話なんだろう。
でも……
「……一人って、こんなにも辛くて寂しいことだったんだ」
突然、見知らぬ場所に放り出されて。
そして、一人ぼっちで。
「はぁ」
ついつい悪い想像をしてしまいそうになる。
俺はもう死んでいて、ここは天国か地獄とか。
あるいは、ダンジョンがまるごと吹き飛ばされて、俺一人、助かったとか。
「って、いけないいけない」
そんなことを考えていたら、本当に現実になってしまいそうだ。
マイナス思考にとらわれないで、前を向いていかないと。
「とりあえず、状況を整理しよう」
幸いというべきか、周囲に魔物の類は見当たらない。
じっくりと思考を巡らせて、考えをまとめる。
「……これ、強制転移させられたのかな?」
状況を見ると、それ以外に考えられない。
そして、その犯人は……
「あの人形……か」




