表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

352/547

350話 一緒に歩こう

『……いいのか?』


 念押しするように、魔王が問いかけてきた。


「自分で言ったことだよね」

『だが、積極的に勧めているわけではない。他に方法がないから、こうして話をしているだけだ。本来なら、お前の体を奪い、俺がやるところだ』

「でも、それはしない。君はもう、同じ過ちを繰り返したくないから」

『……』


 図星なのか、魔王が黙る。


 こうして色々な話をして、理解した。

 彼は魔王と呼ばれているものの、でも、根本的なところは俺達人間と変わらない。


 弱くて。

 孤独を恐れて。

 間違いを犯すことを避ける。


 そんなものなのだ。


「話を聞いたら放っておくことはできないし……あと、俺は俺でやっておきたいことがあるんだ」

『幼馴染の件か?』

「知っているの?」

『お前の中にいたからな。だいたいのことは知っている。ただ、あの女は……』

「一応、自我は取り戻しているみたいだね」

『……それも知っていたのか?』


 魔王は今度こそ驚いたみたいだ。

 俺がなにも知らない、気づいていないと思っていたのだろう。


「もちろん、知っているよ。伊達に幼馴染をやっていないからね」


 レティシアは隠そうとしていたみたいだけど……

 でも、少し見ればすぐにわかった。


 ひねくれた態度をとっているものの、以前のように刺々しくない。

 時折、すごく気まずそうな目をしている。


 彼女は、とてもわかりやすいのだ。

 それが俺の幼馴染。


 たぶん、俺に合わせる顔がないとかそんな理由で、今も演技を続けているのだろう。

 でも、舐めないでほしい。

 俺はレティシアの幼馴染なのだから、色々と事情を知った今なら、わりと簡単に見分けがつく。


『ならば、なぜ黙っている? なぜなにもしない?』

「気にしないで、とか言ってもレティシアは気にするだろうし……本当の意味で仲直りするには、なにかこう、うまいきっかけが必要だと思うんだ。それが見つからないから、今は、下手に刺激しない方がいいかな、って」

『ふむ』

「あと……根本的な解決はまだだからね」

『それも気づいていたか』


 レティシアは気づいていないみたいだけど……

 彼女は今、悪魔の魂を完全に抑え込んでいる。

 それは正解だ。


 でも、抑え込んでいるだけであって、消滅させたわけじゃない。


 支配下に置いたとしても、後々で反逆されるかもしれない。

 ふとしたタイミングで主導権を奪い返されるかもしれない。

 そういったリスクは、未だ残っている。


 だから、俺はレティシアと一緒にいる。

 そうすることで、彼女が再び暴走しないようにして……

 同時に、根本的な問題の解決を考えていきたい。


「だから、この場合は互いの利害が一致しているんだ。まあ、俺は世界の都合より自分の都合を優先しているから、気に入らないかもしれないけど」

『構わない。いきなり世界のために……と言われる方が信用ならん』

「それもそうかもね」


 契約成立だ。


 俺は彼の全てを受け継ぐ。

 引き継ぐ。


 彼が背負っていたものはとても大きくて、どれだけできるかわからないけど……

 うん。

 全力で挑んでいこう。


 大丈夫。

 諦めない限り、わりとなんとかなるものだ。


『気楽だな』

「変に気負うよりはいいかな、って」

『違いない』


 魔王が苦笑した。

 そして、手を差し出してくる。


『世界を頼んだ』

「頼まれた」


 彼の手を取る。


 瞬間、ぶわっとなにかが流れ込んできた。


「これは……」


 魔王の力だ。

 いや、それだけじゃない。

 知識、記憶、想い……魔王の全てが流れ込んでくる。

 これが魔王を『継ぐ』ということか。


『俺はここまでだ』

「……」

『後は任せた』

「うん。でも……」


 彼の旅はここで終わる。

 だけど……


「あなたの想いは、一緒に連れて行くから」

『……すまないな』


 その謝罪は、どういう意味なのか。

 なんとなく想像はできたものの……でも、口にするのはやめておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ