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349話 力だけでは

 まったく予想外の展開だ。


 魔王との殴り合いを覚悟していたのだけど……

 意外にも紳士的に対応してくれた。

 そして、魔王の使命という、とんでもない話を聞かせてくれた。


『さて、どうする?』

「……」

『答えを聞きたいところだが……考える時間は必要か。長くは待てないが、考えるといい』

「ありがとう」


 今の話について考える。


 魔王がウソ、あるいはデタラメを言っている可能性は?


 否。

 その可能性は限りなく低い。

 自分の力を明け渡すとまで言っているのだから、ここでウソを吐く意味はない。


 本当のことを話しているけど、全てを話したわけではなくて、裏でなにか画策しているのでは?


 ありえるかもしれない。

 ただ、それを見抜く術はないし、情報も圧倒的に足りない。


 結局のところ……

 論理的に納得することは難しいから、直感などで決めるしかない、ということか。


「よし」


 もう少し考えてから、小さく言う。


『結論は出たか?』

「その前に、もう二つ、質問をいいかな?」

『なんだ?』

「俺が魔王になれば、悪魔の魂を抑え込んだりとか、そんな感じでうまくコントロールできたりするかな?」

『可能だ。魔王は、悪魔の上位種だからな』

「オッケー。あともう一つは、悪魔の役目は? なんだか、わりと昔から好き勝手暴れているみたいだけど……」

『……そのことか』


 魔王が苦い顔に。

 その反応から見ると、現状を好ましく思っていないみたいだ。

 また、暴れろ、と命令したわけでもないのだろう。


『恥を晒す話になるが、神と戦う手駒を欲した俺は、選定をして、人間に力を与えていった。それが悪魔だ。ただ、性格を考慮していなかったのでな……俺という統率者がいなくなったことで、本来の使命を放り投げて、好き勝手し始めたのだろう』

「なんて迷惑な……」

『まともに活動している悪魔もいるだろう? 今は魔人になっていたか』

「いるにはいるけど……」


 今のところ、リリィくらいしか知らない。

 他の魔人は本当に好き勝手している。


「あ、追加で質問いいかな?」

『なんだ?』

「君が討伐されたのは、今の話からすると、やっぱり神様のせいなの?」

『ああ。うまい具合にそそのかされた人間と戦い……まあ、このように、肉体が滅び魂だけとなった。完全消滅を免れたのは幸いだが、人間の中に封じられることになってな』

「それが俺……か」


 勇者の幼馴染に魔王の魂が宿る。

 なんだか皮肉な話だ。


『他に質問はあるか?』

「ううん、大丈夫」


 知りたい情報は全部得ることができた。


 まあ、それが正しいかどうか、わからないのだけど……

 ウソは言っていないと思う。


「あ、ごめん。これが本当に最後だから、もう一つだけ、質問いい?」

『なんだ?』

「俺が色々と受け継ぐとなると、君はどうなるの?」

『消えるだろうな』

「やけにあっさり言うね。それでいいの?」

『構わないさ』


 むむ? と、少し怪しんでしまう。


 人間だろうが魔王だろうが。

 普通、死にたくないと考えるのが当たり前のこと。

 それなのに、こんなにもあっさりと手放そうとするなんて。


『力と使命を託す相手をずっと探していた。そのために、何度かお前に語りかけて、時に、好き勝手させてもらった』

「ありがとうと言うべきなのか、迷惑だよと言うべきなのか……」

『お前が死ねば、俺はまた別の人間に宿ることになるからな。相性の良いお前を手放したくはない』

「なるほど」

『そして今、託すべき相手を見つけた。ならばもう、俺は不要だ。過去の亡霊が留まるべきではない。さっさと消えるべきだろう?』


 たぶん……本心だと思う。

 言葉に重みを感じる。


「俺、そんなに適任かな? 色々と足りないと思うけど……」

『足りないな』

「うぐっ……ハッキリと言うね」

『世辞を言っても仕方ないだろう? 力はまだまだ。知識も足らない。とっさの判断も甘い。ダメなところを挙げていくとキリがないな』


 容赦がない。


『だが……言い換えれば、それだけ伸び代があるということだ』

「……」

『そしてなによりも、お前にはちゃんとした心がある』

「心?」


 魔王は自分の胸に手を当てた。

 その表情は、どこか寂しそうだ。


『神を討つため、俺は力を求めてきた。最強の力を手に入れた……が、心が足りていなかった』

「……」

『心なき力は、ただの凶器だ。昔はそれを理解することができず、ただ暴れるだけで……結果、魔王と呼ばれるようになった。愚かなことをした』


 悪魔は、人類の敵対者として記録されている。

 その上位の存在である魔王の記録は残っていないが……

 彼の表情を見る限り、そういうことなのだろう。


 力だけではダメ。

 心が必要……か。


 その言葉で俺は覚悟を決めた。


「うん、了解。俺は、君の全部を継ぐよ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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