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35話 悪あがき

 深夜の冒険者ギルドは、当たり前ではあるが静寂に包まれていた。

 人の姿はない。

 物音もしない。


 そんな中、俺とアリスとサナは、カウンターの裏に隠れていた。


「……師匠、うまくいくっすかね?」

「……どうだろうな? こればかりは運が絡んでくると思う」


 レティシアの勇者の特権を使い、ギルドにとある依頼をした。


 聖女の偽者事件。

 その真実に至る情報を明日、公開する。

 そんな情報をあちらこちらに流してもらった。


 ジンはすぐに話を知るだろう。

 そして、黒幕に報告をする。


 ジンと黒幕は、証拠の処分を企むだろう。

 そのための方法はシンプルなもので、冒険者ギルドへ侵入して、直接、処分すること。

 それ以外の方法がない。


 俺たちは先回りして、ギルドで待機。

 やってきたジン、あるいは黒幕の様子を影から……なおかつ、近距離の同じ建物内で観察。

 そうすることで、今度こそ、確実な証拠を手に入れるというものだ。


「……ただ、けっこう運が絡む要素が多いからな。確実にうまくいくとは限らないさ」

「……そうかしら? わりとうまくいくような気がするわ」

「……相手に考える時間を与えない、ってところがポイントっすね。師匠、さすがっす」

「……しっ、来たみたいだ」


 ギルドの裏口の方から物音がした。

 音を立てないように注意しているらしいが、鍵は古く、どうしても音が響いてしまう。


 カチャン、と鍵の開く音。

 ついで、ギィ、と床を鳴らす音が届いてきた。


 足音の数は……二人分。

 ただ、それだけで二人しかいないと断定することはできない。

 外で待機させている可能性は十分にある。


「誰もいないな?」

「ああ、大丈夫ですぜ。こんな深夜にギルドに残るようなヤツはいねえさ」


 一人はジンの声だ。

 もう一人は……わからない。


 アンジュやナインがこの場にいれば、わかったのかもしれないのだけど……

 二人にはとある役目を頼んでいるため、この場にはいない。


 レティシア?

 アイツがいると場がひたすらに荒れそうなので、適当に言い含めて、街の外を走らせておいた。


「わしらが事件に関わっているという証拠はどこなのだ? 金庫か?」

「どうでしょうかね……ひとまず、そちらから調べてみますか」


 二人が事務室へ入る。

 こちらはずっとこんなところにいるため、暗闇に目が慣れている。


「……師匠」

「……まだだ」


 取り押さえるっすか? というような感じでサナがこちらを見てきたが、首を横に振る。


 まだ、決定的な証拠とはいえない。

 ただ、ギルドに不法侵入をしただけ。

 事件に関わっているという発言も、とぼけられればおしまいだ。


 二人の後を追い、俺たちも事務室の入り口の近くへ。

 いつでも隠れられるようにしつつ、中の会話に耳を澄ませる。


「どうだ? 金庫に証拠は入っているか?」

「……入っていませんね。となると……そこらに放置ってことは考えられねえから、誰かの机の中か?」


 ガチャガチャと事務室を漁る音が響いてきた。


「早くしろ! わしらが偽者事件の背後にいるという証拠は、すぐに潰しておかなければならんのだ!」

「大将、焦りすぎですぜ」


 今の発言……完全にアウトだ。


 アリスを見る。

 バッチリ録音したと言うように、魔道具を見せてきた。


 よし、もういいだろう。


 暗闇の中、俺は身振り手振りでサナに合図を送る。

 サナは俺の意図を正確に汲んでくれて、さらに、アンジュとナインに合図を送る。


 そして……


 カッ!


 突如、強烈な光でギルド内部が照らされた。


「ぎゃあっ!?」

「ぐっ……こ、こいつは……!?」


 ジンともう一人の男の悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃーっ!? 目がー、目がー!?」


 ついでに、サナの悲鳴も聞こえてきた。

 ジンたちと同じく、光を直視したのだろうけど……

 そうならないように、床の方を見ておこう、と言っておいたはずなのだけど。


「アリスっ!」

「ええっ!」


 急に光が差し込み、目が慣れずに眩しく感じるものの……

 ジンたちは光を直視したらしく、視界が奪われている状態だ。

 そんな二人を取り押さえることは簡単で、すぐに制圧できた。


「ぐっ……な、何者だ!? このわしを誰だと思っている! ええいっ、離せ!」

「なんてこった……まさか、罠だったのか……」


 男は喚き散らす。

 一方で、ジンはなにが起きているか理解した様子で、がくりとうなだれていた。

 諦めたのだろうか?


「あぁ、やっと目が慣れてきた……あんた、聖女の嬢ちゃんのところにいた兄ちゃんかい?」

「ああ、そうだ」

「まさか、バレているなんてなあ……こいつは兄ちゃんが考えたことなのか?」

「一応……?」

「まいったねえ。なんてことない顔して、かなり頭が回るじゃねえか」

「証拠は手に入れた。外にアンジュたちだけじゃなくて、他の冒険者や、ギルドの職員も待機している。もう終わりだ」

「そうだな……どうやら、ここでの活動は終わりみてえだ」

「ここでの……?」


 その言い方……まるで、逃げられると思っているみたいじゃないか。

 俺たちに取り押さえられて、周囲をたくさんの人に囲まれて。

 それでも尚、逃げられるという自信があるのだろうか?


 俺たちの罠を見抜いていた様子はない。

 だから、あらかじめ準備しておくということは不可能だ。


 なら……

 いつなにが起きてもいいように、常に万全の備えをしていた?


 だとしたら、まだ安心できない!


「みんなっ……」

「遅いな」


 ジンがニヤリと笑うのが見えた。


「兄ちゃんは、コイツらと遊んでてくれや」

たくさんの反響をいただいているので、もうしばらくがんばりたいと思います。

ただ、ちょっと忙しくなってきたので、月・水・金の週3回の更新になります。

これからもお付き合いいただけるとうれしいです。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 敵もさるものひっかくもの かw さてジンは逃げ切れるかな?w
[良い点] 更新ありがとうございます! いつも楽しませて頂いております。 [気になる点] 敵に討伐・捕縛直前で逃げられるのほお約束! ですが、そうなると主人公の詰めの甘さや判断の遅れが際立ってしまうの…
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