346話 影
「やあ、待っていたよ」
図書館ダンジョンに入ると、シノが出迎えてくれた。
こころなしかげっそりと、疲れているように見える。
リリィの無茶なお願いに振り回されているみたいだ。
おつかれさま。
「さっそくだけど、最深部に案内しようと思う。準備はいいかい?」
「いいけど、そんなに簡単に行けるものなの?」
「図書館ダンジョンの創造主はマスターだからね。色々と隠し要素があるんだよ」
さらっと、とんでもない情報を口にされた。
シノ曰く……
図書館ダンジョンは、リリィが世界中の図書を集めるために作ったものだとか。
趣味だけではなくて、危険な魔法書などを封印、管理する役目もあるらしい。
意外と考えて行動しているんだ。
……という、失礼な感想を抱いてしまう。
それはともかく。
シノの案内で、俺達は最深部の一歩手前へ。
「ここが……」
とてもシンプルな部屋だ。
調度品はなにもなく、灯りの台座もない。
それなのに、部屋全体がぼぅっと淡い光を放っている。
きっと特殊な鉱石が使われているのだろう。
「綺麗なところです……」
「ですが、なにもありませんね」
ナインが言うように、最深部へ繋がる階段や扉が見当たらない。
大事な場所らしいから、隠されているのかな?
「奥の方に立ってくれるかな? えっと……うん。そう、そこで」
シノの指示で部屋の奥の方へ。
みんなも続こうとして、
「ストップ。ここから先は一人だけだ」
シノの制止に、みんなの足が止まる。
事前に聞いていたけど、ここから先は一人……か。
そう思うと、少し、心細くなってしまう。
レティシアと別れて。
アリスと出会い。
アンジュとナイン、シルファにサナ。
そして、クラウディア。
みんなに出会うことができたから、今の俺がある。
どれか一つでも欠けていたら、たぶん、俺という存在は成立していなかっただろう。
でも、ここから先は俺一人。
誰かに頼ることはできなくて。
自分だけを信じなくてはいけない。
「うん」
覚悟はすぐにできた。
大丈夫。
一人になるといっても、別れるわけじゃない。
絆は繋がったまま。
心は一つに。
「準備はいいかい?」
「大丈夫」
シノの問いかけに、俺は即答した。
軽く振り返る。
心配そうなみんなの顔が見えて……
「いってくるね」
俺は、笑顔を見せた。
――――――――――
気がつくと、真っ暗な場所にいた。
明かりがまったくなくて、視界はゼロだ。
それと、足元がおぼつかない。
水の中にいるような感じで、ふわふわと浮いている。
上下の感覚が曖昧で……
自分が今どこを向いているのか、わからなくなってしまう。
「なんだろう、ここ……?」
『ここは俺の中だ』
ふと、声が響いた。
暗く。
低く。
重い。
そんな声が頭の中に直接響いた。
「誰?」
『ほう、慌てないか。ずっと中で見ていたが、やはり面白いヤツだな』
「中で?」
その言葉の意味を考えて、理解する。
「君はまさか……」
『そうだ、お前達が魔王と呼ぶ存在だ』




