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344話 他に手はない

「ハル!?」

「ハルさん!?」


 今まで成り行きを見守っていたアリスやアンジュが驚いていた。


 また無茶をして。

 そんな感じで、ジト目を向けられてしまう。


 怯んでしまいそうになるけど、でも、ここで引くわけにはいかない。


「ハル、わかっているの? リリィが言っているように、リスクがあるの。というか、リスクしかないわよ?」

「うん、わかっているよ」

「本当に? こういう言い方はしたくないけど……失敗したらハルだけの問題じゃなくなる。悪魔達の王である魔王が復活して、とんでもない混乱が起きると思う。あと……そういった事態を避けるためにレティシアは孤軍奮闘していたのよ?」

「……わかっているよ」


 アリスの言葉をしっかりと受け止めて。

 考えて。

 感じて。


 そして、その上で答えを出した。


「他に手はないと思うんだ」


 リリィは、時間をかければ魔王の力をコントロールできるようになるかもしれない、と言った。


 かもしれない、というだけで絶対というわけじゃない。

 失敗するかもしれないし……

 逆に、途中で俺が乗っ取られるかもしれない。


 安全策を選んで、逆に失敗したら意味がない。

 それなら、リスクを覚悟で成功率が高い方を選ぶべきだ。


 そう言うと、アリス達が苦い顔に。


「それは、そうかもしれないけど……」

「大丈夫。俺は、絶対に失敗しないから」

「どうしてそう言い切れるの?」

「ここまで歩いてきた時間があるから」


 アリスと出会った。

 アンジュとナインと出会った。

 サナとシルファと出会った。

 クラウディアと出会った。


 そして……

 再びレティシアと一緒に行動することにした。


 みんなと紡いできた縁。

 信頼。

 そして、絆。


 それらは簡単に崩れるようなものじゃない。

 世界最強の剣のように、絶対に折れることはない。


 だから、大丈夫。

 俺は俺のままでいられると、そう断言することができる。

 魔王の魂であれ、この絆を打ち砕くことなんて、絶対にできやしない。


 そう語ると、アリスを始め、みんなはぽかんとした表情に。


「どうしたの?」

「いえ、なんていうか……」

「ハルさんは……」

「どうしようもないくらい……」


 みんな、口を揃えて、やれやれという感じの生暖かい目をする。


 そして、最後にクラウディアが一言。


「ハルさまらしいですわ」

「俺らしい……って、いうと?」

「ふふ、詳細は秘密ですわ」

「むう」


 褒められている?

 それとも、バカにされている?


「まあ、いいや」


 応援されていると、前向きに捉えることにしよう。

 うん。

 その方が気持ちいい。


「ハル」


 ふと、冷たく鋭利な声をぶつけられた。


 レティシアだ。

 思い切りこちらを睨みつけている。

 殺気に近いものを放っていて、ものすごく落ち着かない。


「本当に試練とやらを受けるつもり? 絆とかよくわからないものを信じて?」

「そうだよ」

「ハルなんかに、そんなものクリアーできるわけないじゃない。自惚れもいいところじゃない?」

「確かに、自惚れかもしれないね」

「あら、認めるの? なら……」

「でも、やめないよ」

「っ」


 ハッキリと言い切ると、レティシアが怯む。

 僕の言葉の奥にある覚悟を感じ取ったのだろう。


「どうして……」

「え?」

「どうして、そこまでするのよ? そんなに強くなりたいの? 力がほしいの?」

「そんなもの、どうでもいいよ」

「なら……」

「僕が魔王の力をコントロールできるようになれば、色々とできることが増えるし……あと、レティシアのためにもなるし」

「私?」

「うん。きっと、良い方向に向かうと思うんだ」

「……」


 レティシアは目を逸らす。

 なにを考えているかわからないけど、でも、これ以上は反対しないようだ。


 うん。


 強引にだけど、話をまとめることができた。

 後は試練を受けるだけだ。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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