343話 おや? レティシアの様子が……
「んーっ、到着!」
馬車に揺られることしばらく。
ようやく学術都市に到着した。
ここに戻ってくるのは数カ月ぶりだ。
だからなのか、妙に懐かしく感じる。
「やっぱり、ここは活気があるわね」
「あぁ、おいしそうな匂いがするっす……」
「ダメですわ、サナさん。お食事は後にして、今は、学長のところへ向かわなければ」
こころなしかみんなのテンションも高い。
やっぱり、久しぶりの場所だから懐かしく思っているのかな?
「……ねえ、ハル」
「うん?」
ふと、レティシアに声をかけられた。
「えっと、その……」
「なに?」
「……な、なんでもないわよ、バカ!」
「えぇ」
俺、なんで怒られたの……?
「……やれやれ」
少し離れたところにいるアリスが苦笑しているが、その意味は不明だった。
――――――――――
ひとまず宿の確保を……と思っていたら、シノからの使いがやってきた。
どうやら、都市に入った時点で俺達のことを把握していたらしい。
どうやって突き止めたんだろう?
情報網が気になる。
それはそれとして。
宿はシノが用意してくれるということで、俺達は魔法学院へ。
久しぶりに訪れる魔法学院は懐かしく、またここで色々なことを学びたいと思った。
そんなことを思いつつ、学院長室へ。
「やっほー、久しぶり―」
とてもフランクな感じでリリィに迎えられた。
しばらく会っていなかったのだけど、まったく変わっていない。
髪の毛の長さも変わっていない。
魔人だからなのか、リリィがそういう体質なのか。
後者のような気がした。
「久しぶり」
「おー、なんか凄みのようなものがあるねー。うんうん、武術都市で良い経験をしたみたい。すっごく強くなったね」
「ならいいんだけど」
強くなったという自覚はある。
でも、魔人や悪魔達の統治者として君臨するほどではないと思うんだけど……
「うんうん、これならいけるかな?」
「いける?」
「わざわざ遠くで修行をしてもらったのは、私達の統治者になってもらうため。魔王として君臨するため。それはオーケー?」
「うん」
そうすることで、魔人達の無意味な破壊活動などを押さえることができる。
そしてなによりも、レティシアを元に戻すことができるかもしれない。
だから俺は、魔王になると決めた。
「で、そのためには君の中に眠る魔王の魂を自由自在に、完全にコントロールしないとダメ。私が欲しいのは頭すっからかんな暴君じゃなくて、先のことをちゃんと考えられる理知的な魔王なんだよね」
「うん、それはこの前聞いたよ」
「だから、君に強くなってもらう必要があった。魔王の魂に乗っ取られたりしないように、強靭な肉体と精神、そして魂を手に入れてもらう必要があったんだよねー」
「それはわかるけど……」
魔王の魂を完全に制御する。
今の俺で、そんなことが可能なのか?
武術都市の大会の時、魔王の魂が語りかけてきたけど……
あの時ははねのけることができた。
でも、本気じゃなかったような気がする。
戯れに声をかけてきた、そんな感じ。
もしも、魔王の魂が本気で俺のことを乗っ取ろうとしたら……
たぶん、抵抗はできないと思う。
それくらいの力の差を感じている。
強くなったからこそ、そう思うようになったのだ。
「本当にできるのか? っていう顔をしているねー」
「それは……」
「大丈夫、大丈夫。そのために修行をしてもらったんだし、いい感じに強くなっているよー」
「そう……なのかな?」
あまり実感がない。
でも、魔人のリリィが言うのだから、それなりの根拠はあるのだろう。
「で、ここからが本題ね。試練を受けてほしいんだよね」
「試練?」
「そそ。魔王の魂を制御するための試練。それを乗り越えることができれば、力をコントロールして魔王になれるよ」
「そんな試練があるなんて……」
「もちろん、簡単なものじゃないよ。下手したら死んじゃう。っていうか、逆に乗っ取られちゃう可能性が高いかな?」
当たり前だけど、相応のリスクはあるみたいだ。
「一応、試練に挑まなくても力をコントロールできるようにはなるよ。長い時間をかけてゆっくりとなじませていけば、大丈夫。ただ、その間、ずっと侵食に耐えないといけないし、なによりも時間がかかるから……」
「やるよ」
「ほぇ?」
「試練とやらを受けるよ」
迷うことなく、そう言った。




