340話 出発
村の問題は解決した。
復興もある程度進み、手を貸す必要はなくなった。
そして……
旅を再開するための補給を済ませた俺達は、村を発つことに。
「もう行ってしまうのかい?」
話を聞いて、ソフラさんが見送りに来てくれた。
彼女だけじゃなくて、他にもたくさんの村人達……それと、アルサムもいる。
「すみません。遠くの街で、待たせている人がいるので……」
「そうかい、それなら仕方ないねえ。まあ、これが今生の別れというわけでもあるまい。近くに来たら寄るといい」
「おう、あんたらなら歓迎だぜ!」
「その時は、また宴会だな!」
「もうっ、そうやって飲みすぎて二日酔いになるんだから、ほどほどにしなさいよ!」
あははは、という笑い声が響く。
賑やかで、明るくて、優しくて……
うん。
この村の雰囲気はとても好きだ。
建前とかじゃなくて、機会があれば、また是非寄らせてもらおう。
「人間よ、世話になったな」
アルサムはいつもの調子で言う。
ここ数日、ずっと一緒にいたからなのか、そんな彼に愛嬌を感じるようになっていた。
気ままに世界を旅するドラゴン。
そして、サナのお兄さん。
できれば、もう少し話をしたいところだけど……
そうやってずるずると滞在を延ばしていたら、ずっと村を出れなくなってしまいそうだ。
だから、この辺りで終わりにしておかないと。
「今回のこと、妹のこと。礼を言うぞ」
「いえいえ、大したことはしていないですから」
「そんなことはないが……まあ、そういう謙虚なところも、お前の美徳なのだろうな」
「ハルは、もうちょっとわがままになってもいいと思うけどね」
「そうですわね」
アリスとクラウディアの妙な援護が飛んできた。
わがまま、と言われても……
今でも十分わがままをしていると思うんだけど?
「ハル様、そろそろ……」
ナインに出立を促された。
「うん、了解」
最後に、もう一度、ソフラさん達を見る。
そして、ぺこりとお辞儀。
「色々とお世話になりました」
「こちらこそ」
互いに頭を下げて……
笑顔を交わして……
そして、僕達はこの村での冒険を終えて、次の場所へ旅立った。
――――――――――
「……」
カラカラと馬車の車輪が回る音がする。
時折、小石を踏んだのか、カタンと馬車が小さく揺れる。
ぼーっと、窓の外を見る。
村にいた頃は、どんよりと空が曇っていた。
風も強く、天気は荒れていた。
でも、今は正反対の空模様だ。
空は明るく、白い雲が流れている。
降り注ぐ陽射しは温かく、ちょっと気を抜いたらそのまま居眠りしてしまいそうだ。
……でも、今はそんな気分じゃない。
「悪魔……魔王……」
ぽつりと、そんな言葉がこぼれた。
その原因は一つ。
村を発つ前、アルサムと交わした言葉にある。
「悪魔。そして、魔王。その起源を知れ……か」
そんな言葉をかけられたのだけど、どういう意味なのだろう?
考えても答えは出なくて……
もやもやとした気分だけが募る。
「現状って……わかっているようで、わかっていないことが多いんだよね」
俺の中には、魔王の魂が。
そして、レティシアは悪魔の魂を取り込み、魔人となった。
でも、悪魔は根本的にどういう存在なのか?
魔王とは?
色々とわからないことが多い。
そういう部分を知ることが、もっと大事になっていくんだろうな。




