表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

341/547

339話 実のところ……

「……」


 レティシアは自分の手を見る。

 傷も染みもない綺麗な手だ。


 しかし、レティシアからしたら、まったく別物に見える。


「……なんて醜い……」


 悪魔の力が宿っている。

 いざとなれば、この手だけで鎧や盾を貫いて、人を殺すことができるだろう。


 いわば、凶器。


 そんな手で、サナのように、ハルと握手をできるだろうか?

 絆を確かめることができるだろうか?

 いや、できるわけがない。


「私は……化け物だもの……」


 ため息がこぼれた。

 深い深いため息。


「……ハル……」


 レティシアは膝を立てるようにして地面に座り、顔を埋める。


「私……一緒にいていいの……?」


 実のところ……

 レティシアは自我を取り戻していた。


 悪魔と融合したまま。

 その存在は、魔人と呼ばれている。


 ただ、悪魔からの侵食は完全に抑え込んでいる。

 というよりは、悪魔の残滓は全て打ち消した。


 伊達に勇者と呼ばれていない。

 強靭な精神力と魂を武器として、悪魔の侵食を防いだ。

 防ぐだけではなくて逆に攻撃をしかけて、悪魔の魂を完膚なきまでに破壊した。


 そのきっかけとなったのは、武術都市でのハルとの戦いだ。

 ハルの強烈な攻撃を受けたことで、悪魔の残滓を破壊することができた。

 ハルの中に眠る魔王の力の影響と考えている。


 そうして、時間はかかったものの、レティシアは完全に自分を取り戻した。


 ……しかし、それまでの行いが消えたわけではない。

 悪魔に侵食されていたとはいえ、ハルに対してひどいことをした。

 謝っても許されないことをした。


「ハルは……たぶん、許してくれると思う」


 一度は決別したものの……

 今は、こうして一緒にいてくれている。

 レティシアの本意ではなかったことも知っている。


 本当のことを知れば喜び、再び受け入れてくれるだろう。


「でも、そんなの……私は、そこまで恥知らずじゃない!」


 悪魔のせいだった、本意じゃなかった。

 だから、ごめんなさい。


 そんなこと、言えるわけがない。

 ハルが許したとしても、レティシアは、自分を絶対に許せないだろう。


 だから……


「私は……今までの私でいないと。ハルに嫌われて、愛想を尽かされて、捨てられて……どうでもいい存在にならないと」


 そうやってハルから忘れられることで、彼の心の傷になることを避けられる。

 現状、それがレティシアにできる唯一の償いだ。


 だから、レティシアは今までと同じように振る舞う。

 わがままに、傲慢に。


 そうして、ハルに嫌われることを望む。

 そうすることでしか償えないと思いこんでいるから。

 不器用だから。


「ハル、私は……」


 どうすることもできず。

 助けを求めることもできず。

 レティシアは一人、孤独と暗闇に囚われている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ