34話 作戦会議
「……っていうことがあったわ」
夜。
アンジュの部屋に、俺、アリス、アンジュ、ナイン、サナが集合する。
レティシアは、もう寝ると言って、寝室に引っ込んだ。
ジンは予定があるからと、今日は帰ってこないらしい。
都合が良いので会議を開いて……
そして、アリスからジンに関する報告を聞かされる。
ジンは、町外れにある一軒家でロナと顔を合わせていた。
細かい会話は拾えなかったものの、一連の行動はジンが指示していたらしい。
そんな一連の行動を、尾行することでアリスが突き止めた。
「うん。これで、俺の疑惑を裏付ける証拠を手に入れることができたな」
「「……」」
アンジュとナインが唖然としていた。
よくよく見てみれば、アリスとサナも似たような反応だ。
はて?
どうしたんだろう。
「ハルさん……す、すごいです。ジンさんを疑うなんていう発想、私にはまるでなくて……今の今まで信じ切っていました」
「私もです。不躾な態度は好ましく思っていませんでしたが、まさか、黒幕であったなんて……ハルさまの慧眼に恐れ入るばかりです」
「え? いや、あの……そんな風に言われると、照れるというか……」
「ハル、すごいわね」
「師匠、すごいっす!」
「うぐっ……」
アリスとサナがニヤニヤしている。
これは、からかわれているな。
そのことはわかっているんだけど……
こんな風に褒められることなんて、今まで皆無だったから、どうしても照れてしまう。
「かわいいハルをもっと愛でたい気はするんだけど……まあ、今は、これからのことを話し合いましょうか」
「そうっすね! 師匠を愛でるのは後っす」
愛でるのを止める、という選択肢はないみたいだ。
……がくり。
「アリス、ジンとロナの会話は?」
「一応、魔道具で録音してあるわ。ただ、中に入れなかったから音が途切れ途切れだけど」
試しに再生してもらう。
アリスが言うように、ところどころで会話が飛んでいた。
「ですが、これだけでも証拠として十分ではないでしょうか?」
「そうですね……自分の犯行であることをほのめかしていますし、問題はないような気がします」
アンジュとナインがそんな感想をこぼす。
「うーん……どうかしら? とぼけようと思えば、いくらでもとぼけられると思うのよね。一歩、決定打に欠ける気がするわ」
「ダメだった場合、警戒されちゃうっすよね。そうなると、今よりもとことん面倒な状況に陥りそうっす」
アリスとサナは慎重な意見だ。
どちらの意見も正しいように聞こえる。
さて、どうしよう?
「師匠はどう思うっすか?」
「俺は……」
考えて、俺なりの答えを口にする。
「アリスが言うように、ちょっと証拠としては弱い気がする。とぼけられるかもしれないし、サナが言うように、警戒されるかもしれない。あと、強引に行けば押し通せないこともないと思うけど……その場合、捕まえることができるのはジン一人だよな。それは、なんていうか、もったいない」
「なるほどっす」
「だから……コレをエサにして、ジンを含む、一連の事件の黒幕、全部釣り上げよう」
――――――――――
アーランドには無数の教会がある。
小さなところから大きなところまで、その数は10を超える。
その中で、一番大きな北区の教会の管理人を務めているのが、オルド・スミスだ。
でっぷりと肥えた体に、長く伸びたヒゲが特徴的だ。
ただ、いつも笑みを浮かべていることから、だらしないというよりは、朗らかで優しいという認識を持つ人がほとんどだ。
笑顔で体重の多い男というのは、そんな印象を持たれることが多い。
しかし、その笑顔は偽りの仮面だ。
考えることは、常に金や権力のことばかり。
神官長という立場にいるものの、金とコネで成り上がり、実力は関係していない。
オルド・スミスは、そんな人間である。
「……そろそろ、あの生意気な小娘たちを退場させるか」
夜の教会で、一人、オルドは今後のことを考えていた。
聖女も大神官も、なぜか自分ではなくて、年若いアンジュとロナが選ばれた。
そのようなことはおかしい。
あってはならない大きなミスだ。
だから、オルドはそのミスを修正することにした。
冒険者の一人を金で落として、手駒として……
裏で色々と暗躍をした。
結果、聖女と大神官に罪を被せる一歩手前まで進むことができた。
そのことに対して、オルドはなにも罪悪感を得ていない。
むしろ、これは正しいことだという歪んだ正義感を抱いていた。
「まあ、二人共顔はいいからな……ぐふふ、わしの愛人として傍に置いてやることも考えてやるか」
本人の意思なんて関係ないというように、オルドはだらしない笑みを浮かべる。
そこに、聖女や大神官にふさわしい威厳などは皆無であり、むしろマイナス印象しかないのだけど……
そのことを本人が自覚することはない。
自分こそが一番優れていて、全ての人の頂点に立つべきだと。
そのためならば、どのようなことをしても許されると。
心の底から、そう信じて疑っていないのだ。
「さて。そうと決まれば、さっそくジンに……」
鍵が開けられる音。
それから、ギィ、と教会の扉が開いた。
姿を見せたのは……ジンだ。
「おぉ、ジンか。定期報告か? ちょうどいいところに来た。実はお前に……」
「……大将、ちとまずいことになった」
「なんだと?」
「明日、大将にまずい情報が冒険者ギルドで公開されるらしい」
「なんだと!? どういうことだ!?」
「俺もよくわからねえが……ひょっとしたら、俺のミスかもしれん。すまん」
「すまんでは済まないぞ!? どうするつもりだ!? わしが捕まるようなことがあれば、お前も捕まるのだぞ!? わしらは一蓮托生なのだ!」
「わかっているさ。だから、今夜のうちに冒険者ギルドに忍び込み、公開されるという情報を盗み出す。そのための力を貸してほしい」
「くっ……この失態、高くつくぞ!」
「ああ、しっかりと働くさ」
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