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336話 考えてほしい

 その後、朝食を食べて……

 それから、再びアルサムと話をした。


 今度はサナに見つからないように、こっそりと内緒の話をした。


 これからのこと、サナのこと。

 納得いくまで、とことん話し合った。


 そして、とある結論が出て……


「サナ」


 俺は、今度はサナのところへやってきた。


「あ、師匠」


 朝、二日酔いで死にそうになっていた姿はどこへやら。

 薬草で回復したらしく、サナは元気に村の復興を手伝っていた。


 盗賊による襲撃の死者はなかったものの、ある程度の怪我人は出てしまった。

 家屋にも被害が出てしまった。


 壊れた家を前にして、村人達は途方に暮れていたのだけど……

 「そういうことなら自分が手伝うっす!」とサナが言い出して、今に至る。


「どうしたっすか?」

「はい、ごはん」


 ソフラさんに作ってもらったサンドイッチと、果物の果汁を絞ったジュースを渡す。


「まだ食べてないんだよね?」

「おおー!! そういえば食べてなかった! 労働の喜びに目覚めて、忘れていたっす!」


 サナは担いでいた丸太をおろして、さっそくお弁当を食べる。

 口を大きく開けて、とびっきりの笑顔で……

 そんな彼女を見ていると、最強のドラゴンとはとても思えない。


 でも、サナがドラゴンであることは紛れもない事実で……

 そして、生まれた時は一人で……

 今、ようやく家族に出会うことができた。


「……ねえ、サナ」

「なんすか? んぐ、もぐ」

「サナは、アルサムさんのことはどう思っているの?」

「家族としてどう、っていうことっすか?」

「うん」

「んー……」


 サナは小首を傾げて、悩むように腕を組む。

 尻尾もくねっと曲がる。


 そうして考えること少し、答えが出た様子で口を開く。


「あまり実感はないっすけど……でも、兄貴なんだなあ、って思うっす」

「そっか」

「知り合ったばかりなんすけど、でも、なんていうか……ずっと一緒にいたような感覚がするというか……うー、うまく言葉にできないっす」

「なんとなくわかるよ」


 家族のことをどう思う? と聞かれても、普段から意識していないと、なかなか答えづらいものだ。

 ましてや、サナは初めて出会ったばかり。

 うまく言葉にまとめるのは難しい、か。


「じゃあ質問を変えるけど、一緒にいたい、って思う?」

「それは……」


 俺の質問の意図を察したのだろう。

 サナは神妙な顔になり、じっとこちらを見つめてきた。


「先に言っておくけど、俺は、これからもサナと一緒に旅をしたいよ? ムードメーカーというか、一緒にいると楽しくて笑顔でいられるし……それに、妹みたいに思っているんだ」

「……師匠……」

「ただ、家族と一緒にいることも大事だと思うんだ。今まで一緒にいられなかったのなら、なおさら」


 サナは家族の愛情を知らない。

 温かさを得たことがない。

 それは、とても寂しいことだと思う。


 幸いというべきか、アルサムと出会うことができた。

 ちょっと突拍子もないところはあるけど……

 良い人(ドラゴン?)だと思う。


 だから……


「このまま、ここでアルサムさんと一緒に暮らす選択肢もあるよ」

「師匠、自分は……!」

「待って」


 サナがなにか言おうとするが、それにストップをかけた。


 自惚れに思われるかもしれないけど、サナは俺達と一緒に旅を続けることを望むはず。

 家族よりも優先するはず。


 それはわかっているのだけど……

 でも、すぐに答えを出さないで、しっかりと考えてほしい。


 後で後悔することのないように。


「すぐに村を発たないから、じっくり考えてみて」

「……」

「俺はサナと一緒にいたいって思うけど、でも、家族と一緒に過ごすことも大事だと思うから……だから、ね?」

「……はい……」


 サナは寂しそうに小さく頷いた。


 こんな表情をさせてしまっているのは俺のせいだ。

 でも、こればかりは避けられないことで……

 サナがどんな選択を掴んでも、受け止められるようにならないと。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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