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333話 手を取り合うことができる

「レティシア?」


 みんなの輪から外れるように、一人、離れたところにレティシアがいた。

 不思議に思い声をかけると、なぜか睨まれてしまう。


「っ」

「えっと……俺、なにか怒らせるようなことをした?」

「……別に」


 そう言うものの、なにか言いたそうにしていることは確定だ。

 長い付き合いだから、言葉にしなくても、だいたい、彼女の気持ちはわかる。


「やっぱり怒っているよね?」

「怒ってないわ」

「うそだよ」

「怒ってないわよ!」


 キッと睨まれてしまう。

 うん、やっぱり怒っている。


 というよりは……

 イライラしている、っていうのが正解かな?


 彼女の視線を追うと、アルサムさんと村人達が見えた。


「アルサムさんがどうかしたの?」

「……」

「答えたくないからいいけど、でも、その場合は頭が痛いことに……」

「なにサラッと脅してるのよ!? そういう風に使っていいわけ!?」

「なら、答えてくれるよね?」

「くっ」


 俺、思い切り悪役になっているんだけど……

 でも、仕方ない。

 今のレティシアは、これくらい強引にいかないと話を聞くことができないんだよね。


「で、どうしたの?」

「……ハルのくせに、なんか強引になってるし、生意気だし」

「やっぱり魔法を……」

「わかった、わかったわよ!? 話せばいいんでしょ!」


 やけくそ気味にレティシアが口を開く。


「……訳がわからないからイライラしていたの」

「訳がわからない?」

「アレよ、アレ」


 レティシアが、視線で村人達とアルサムさんを指した。


「なんで、人とドラゴンが仲良くしてるのよ? ありえないでしょ」

「そうかな?」

「そうよ。ドラゴンは全てを搾取する側で、人は搾取される側。主従関係は成立しても、あんな感じに、対等の関係なんて成立しないわ。するはずがないのに……」


 レティシアは複雑そうな顔をした。


 以前のレティシアは、こんなことを考えることはなかった。

 強気なところは変わらないものの、その思考は柔軟だった。


 やっぱり、こうなってしまったのは魔人化の影響だろう。


 でも……

 ちょっとずつでも思考を矯正することで、元に戻すことができるのでは?

 そんなことを思い、さっそく試してみる。


「成立するよ」

「は?」

「だって、目の前で実際に仲良くしているからね」

「それは……」

「同じ人じゃなくても、違う種族でも、仲良くすることはできると思うんだ。手を取り合うことができる……俺は、そう思うよ」


 今の言葉は、レティシアに向けてのものだ。


 彼女は魔人になった。

 心も魂も大きく変貌してしまった。


 でも、そこで終わりじゃない。

 諦めることはない。

 きっとまだ、手を取り合うことができる。

 例え元に戻らなかったとしても、でも、改めて仲良くすることができる。


 そんな希望をいだいていた。


「……」


 俺の言葉は届いたのか?

 レティシアは遠くを見るような目をして、口を閉じた。




――――――――――




「ハル、おつかれさま」


 みんなのところへ戻ると、アリスがそう労ってくれた。

 レティシアとのやりとりを見ていたんだろう。


 そのレティシアは、一人になりたいとどこかへ消えた。


「レティシアはどうだった?」

「うん、おとなしくしてくれていて、あと、色々と話をしたよ」

「そっか。勘違いかもしれないけど、ハルと一緒にいると表情が柔らかく見えるし……もしかしたら、元に戻るかもね」

「うん、そうだね」


 あるいは……

 元に戻らなかったとしても、新しい関係を築くことができるかもしれない。


 そう思ったものの、それはまだ、俺の胸にしまっておくことにした。


「ところで、サナとアルサムさんは?」


 ちょっと目を離した隙に、二人の姿が消えていた。

 あと、村人達も見当たらない。


「奥で開かれている宴会に参加しているわ」

「いつの間にそんなものが」

「ついさっきよ。ハルも参加してきたら?」

「アリスは?」

「あたしはレティシアを呼んでくるわ。ふてくされていそうだけど、でも、呼ばないとそれはそれで拗ねそうだもの」

「あはは、そうだね」


 その姿が鮮明に思い浮かび、アリスと一緒になって笑うのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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