332話 意外と?
盗賊だけど、戦意をなくした相手を殺したくはない。
盗賊達は一人残らず捕まえて、身動きできないように拘束して、村の外れにある倉庫に閉じ込めておいた。
あとは街に連絡をして、騎士団に引き取りに来てもらおう。
制裁は彼らがしてくれる。
騎士団が来るまで数日かかるみたいで……
それまでの間、盗賊が無事でいられる保証はないのだけど、そこは知らない。
そこまで面倒を見る必要はない。
非道を働こうとしたのだから、見捨てられたとしても文句なんて言わせない。
そして……
「「「ありがとうございます」」」
村人達に一斉に頭を下げられて、感謝された。
その中にはソフラさんも含まれている。
そして、感謝の対象は俺達だけじゃなくて……
「あなたがいなければ、村はどうなっていたか……本当に感謝しております」
「ドラゴンというのは、我々が考えている以上に力強く、聡明なのですな」
「すげーかっこよかった……です! 俺、将来はドラゴンの兄ちゃんみたいになる……です!」
「う、うむ……?」
アルサムさん、大人気だった。
アルサムさんは最初は後方で待機していたのだけど……
「獲物を狩り尽くしてヒマだ」と、作戦を無視して中までやってきたのだ。
ドラゴンが二匹。
盗賊達はさらにパニックに陥り……
逆に、村人達はさらに守り神様が現れた、と大歓迎だった。
サナのおかげで、いい感じにドラゴンに対する印象が変わっていたらしい。
そして、サナもアルサムさんも村人達に受け入れられて……
今に至る。
「この度はなんとお礼を言っていいか……」
「そして、申しわけありません。私達はあなたさまドラゴンを敵と思っていたのに、まさか、助けていただけるなんて……」
「う、うむ……気にしなくていい」
「今までは襲撃していたわけではなくて、私達の様子を見に来てくださっていたのですね」
「ああ、ありがたやありがたや」
「う……うむ」
アルサムさんは、軽く視線を逸らしつつ言う。
実際は、奪われたと思い込んだ寝床を取り返そうとしていただけです。
しかもそれ、十年以上放置していて、それでいて権利を主張するというわりと横暴な話です。
……なんて。
真実はそんなところなのだけど、今更野暮は言うまい。
アルサムさんが悪いことを考えているのなら、真実を明らかにする必要がある。
でも、そんなことはない。
ぶっきらぼうな態度をとっているものの、きちんと村人達と接していて……
それなりの誠意を持っていることはひと目見て明らかだ。
これならうまくいくかな?
「すみません、ちょっといいですか?」
ある程度話が落ち着いたところで、村人達に声をかけた。
「こちらのドラゴンの名前は、アルサム。実は今、住む場所を探していて……」
「おお! それなら、ぜひ、この村に!」
「我々は歓迎しますぞ!」
「うむ、強いだけではなくて、こうして楽しく話をすることができる。新しい村人の一員として、ぜひとも迎えたいところじゃ」
俺の言いたいことを察して、村人達が笑顔で言う。
その勢いに、俺だけじゃなくてアルサムさんも押されてしまうほどだ。
「それじゃあ……」
アルサムさんを見る。
後はあなた次第です、と目で言う。
「む」
ここで素直にならないと、全てがひっくり返ってしまう。
お願いだから、変な意地をはらないで。
そう祈っていると……
「……これからよろしく頼む」
ちょっと味気ない挨拶だけど、でも、一緒にいるということをしっかりと伝えることができた。
村人達は歓声をあげて……
ソフラさんも笑顔でアルサムさんを歓迎してくれている。
そんな光景を見たアルサムさんは、
「……悪くないな」
俺にだけ聞こえる声でそうつぶやいて、小さく笑うのだった。
――――――――――
「なによ、これ」
ただの村人がドラゴンを受け入れる。
普通ならありえないその光景を、レティシアは少し離れたところで見ていた。
その表情は……とても苦いものだ。
「人間とドラゴンなんて、絶対に相容れないはずなのに……どうして……」




