331話 こらしめてやりなさい
「へ?」
突然の話に、サナは目を丸くした。
「ドラゴンって、ドラゴンっすか?」
「うん。アルサムさんのようなドラゴン」
「まあ、ここは広いから問題ないっすけど、どうして?」
「いいから早く! 今は説明している時間も惜しい!」
「りょ、了解っす!」
今が非常事態であることはサナも理解しているらしく、問答は後回しに。
「でゅわ!」
サナは片手を上に突き出して、妙なかけ声を響かせて……
「グルァアアアアアッ!!!」
ドラゴン形態に変身……
いや、元に戻った。
「「「なぁっ!!!?」」」
村人と盗賊、両方の驚きの声が重なる。
いきなりドラゴンが現れたら、まあ、驚いて当たり前。
人間形態のサナは、翼と尻尾、角が生えているけど……
普通、それを本物とは思わない。
よくわからない、個人のおしゃれなのだろう、と思われていたに違いない。
でも、それは勘違い。
彼女は……本物だ。
「ガァッ!!!」
久しぶりのドラゴン形態に解放感を得ているらしく、サナは大活躍だ。
くるっと回転して尻尾を振り回して、盗賊達をまとめて三人、ノックアウト。
口を大きく開いて、ブレスではなくて吐息を叩きつける。
ただの吐息と侮ることなかれ。
ドラゴンの吐息は強烈な烈風となり、村人を襲おうとしていた盗賊を吹き飛ばした。
「な、なんだ、あのドラゴンは……」
「もしかして、俺達を守ってくれているのか……?」
村人達は困惑した様子だけど、次第にサナに対する恐怖が薄れてきたみたいだ。
一方の盗賊は……
「なんだよ、これ!? ドラゴンがいるなんて聞いてねえぞ!」
「なんで村人の味方をするんだよ!?」
「ちくしょうっ、ドラゴンが守り神をしているってのか!?」
大パニックだった。
最初はうまく連携をとって村人を追い詰めていたはずなのに、今では見る影もない。
個々が勝手に行動して、逃げ回り、逆に一方的に追い詰められることに。
まあ、無理もない。
辺境の村を襲って楽して稼げるはずなのに、実はドラゴンがいました、なんて話はまったく予想できていないだろう。
頭目を含めて、全員がパニック状態に。
連携を取るどころか、まともに戦うこともできず、逃げる者も現れていた。
でも、逃がさない。
「ファイア!」
威力を絞った魔法で、逃げる盗賊を叩く。
逃がしてしまったら、後で復讐にやってくるかもしれない。
だから、一人も残さず叩く。
俺とサナだけで全員、逃がさないというのは難しいけど……
でも、遅れてみんなもやってくる。
逃げた連中はみんなに任せれば問題ないだろう。
意図せず先発と後衛に分かれたけど、それがうまくいったみたいだ。
それにしても……
「アンギャアアアアア……っす!」
「サナ、ノリノリだなあ」
苦笑しつつ、残りの盗賊を掃討するのだった。
――――――――――
「くそっ、どうなってやがる!?」
盗賊の頭目は、混乱の真っ只中にいた。
楽な仕事なはずだった。
いつものように村を襲い、金を女を奪う。
村は嵐の結界なんてものを使っていたが……
侵入が面倒なだけで、絶対無敵というわけではない。
それに、そんなものを使っているのなら、さぞ素晴らしいお宝があるに違いない。
そう思っていたのに……
蓋を開けてみると大したものはなくて、さらに、どこからともなく現れたドラゴンで盗賊団は壊滅だ。
頭目は逃げることしかできず、必死に走っていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……こ、ここまで逃げれば!」
洞窟の入り口まで移動したところで、頭目は足を止めた。
全速力で走り続けたせいで肺が苦しい。
でも、生きている。
「は、はははっ……運がある、って考えた方がいいか?」
安堵して、次いで、暗い考えを巡らせる。
この村にいる連中のせいで、一から作り上げた盗賊団が壊滅した。
金や女を得る計画もゼロになってしまった。
許せない。
再び盗賊団を作り上げて、必ず血祭りにしてやる。
どこからどう見ても逆恨み以外の何者でもないのだけど、頭目は真面目にそんなことを考えていた。
……だから、それに気づくのが遅れた。
「いてっ」
ふと、なにかにぶつかる。
前を見ると、壁があった。
「おかしいな? こんなところに壁なんてなかったはずだが……」
「俺は壁ではないぞ」
「あん?」
声が上から降ってきた。
見上げてみると……
「貴様が盗賊か。こうして入り口を塞いでほしいと言われたが、ここは通さぬ」
「ひっ……!?」
アルサムと目が合い、盗賊は顔を思い切りひきつらせて……
その後、洞窟全体に悲鳴が響いたとかなんとか。




